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ウッドストックへの道

『ウッドストックへの道』

マイケル ラング (著), 室矢 憲治 (翻訳)

[label: 小学館/2012]

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これは実は素晴らしいビジネス書でもありますよ。この本が本当に読み解けるなら君もフェスで億万長者になれる。

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文:久保憲司

 なぜ69年に40万人(一説には70万人)もの若者が集まったかという事が解き明かされる本。
 そりゃ、そうである、この本を書いたのはウッドストックの主催者マイケル・ラングなので当たり前だ。
 なぜ、40万人もの人が集まったかというと、それぞれ理由はあるだろう。ドラッグやって音楽きいて楽しい時間を過ごしたいから、「みんなが行くと言うから」俺も行くなど。でも、一番の理由はちゃんと明確にある自分たちの国がやっているベトナム戦争への反対だったのだ。
 ウッドストックって、何なんだろうとずっと思ってきていたんだけど、ちゃんとこの本では説明されている。たぶん、アメリカ人のほとんどの人は分かっている事なんだろうと思う。日本では語られていなかったというのは、当時の日本の知識人は凄いバカだなと思う。英語読めなかったのかと疑ってしまう。
 ウッドストックのポスターにもちゃんと”3デイズ・オブ・ピース&ミュージック”と書かれている。ウッドストックは当初計画されていた場所の許可が降りずに場所を変えるのだが、そのオリジナルの場所でのポスターにはピースとおいう言葉は書かれていない、もし、このオリジナルのポスターでやっていたら、主催者が考えた通り、各日5万人、三日間で多くて20万人という予定通りの数字になっていたと思う。いや、もし雨でもふったら、動員は半分になっていたと思う。
 この時代、フェスはいたる所で行われていて、べつに珍しいものじゃなかった。マイケル・ラングもマイアミで一万人級のフェスをやって赤字で会社を潰している。
 なぜ、ウッドストックに主催者が考える、2倍、3倍の人間が来てしまったのか、そこにはやはりピースという言葉がキーワードだったと思う。自分の友達が戦争に行かされている、いつ自分も戦争に行かされるか分からないという気持ちを行動で表したかったのがウッドストックなのだ。
 日本の官邸前抗議運動と一緒だ。こういう人間の気持ちが分からない人たちは、あそこに20万人も集まっていないとか、色々言っていたけど、人間というのはそういうことをするもんなのだ。
 安保の問題がそうであったように、今僕らにとって原発の問題がどれだけ身近な問題ということなのだ。20万人も集まらなかった言う人間は原発が自分たちの問題だと分からないバカなんだと思う。
 なぜ、ピースという名前がついたかというとここは説明されていないんだけど、たぶん、平和集会という申請の方が場所を借りやすいと思ったからだと思う。
 オリジナルの場所ではアート・フェスティバルで申請していてた。しかし、アート・フェスティバルの一部としてコンサートもありますよという感じでは地元の理解を得られなかったので、今回は平和集会の中にコンサートもありますよという感じで地元の認可をとろうとしたのではないかと僕は思う。
 マイケル・ラング自身にとって、反戦ということは、2番目に大事なことだった。彼がやりたかったのは、色々なアーティストがウッドストックに住みだして、コミューンを作っていたその感じで、フェスが出来ないかなと思っただけだった。
 この発想と平和というメッセージで、ウッドストックには40万人もの人たちが集まったのだ。
 後、この時期のフェスにはゲイトクラッシャーというフェスをただで入ろうとする人たちがたくさんいて、いつも主催者とモメていた。その問題を解決するために、フェスをタダにしろといつも叫ぶ過激な政治集団を仲間にするという作戦で、ウッドストックが政治的なフェスになったからというのもあると思う。これがアビー・ホフマンらイッピーたちがウッドストックに関わった理由である。この人たちがブースを出すというメッセージがウッドストックにたくさんの人たちを呼ぶ要因にもなったと思う。
 そして、アシッドでバットトリップした人たちもこの時期のフェスには問題であった。その対策にホッジ・ファームなどのコミューンにまかせたというのもいい相乗効果を生んだと思う。メディアとこうしたイッピーやコミューンのアンダーグラウドのネットワークのプロモーションでウッドストックは当時のフェスの何十倍もの人を集めることに成功した。
 この辺の事にちゃんと気づいているのが、グラストンベリーであり、フジロックだ。
 フジロックにパレス・オブ・ワンダーというチケットがなくっても遊べる場所があるんだけど、それはウッドストックにフリー・スペースがあったからじゃないかなと僕は思っている。
 グラストンベリーがCNDやグリーン・ピースと組んでフェスをやっていたのを見ると、それはウッドストックにアビー・ホフマンたちがいたのと似ているような気がする。
 フジロックの日高さんやグラストンベリーのマイケル・イービスはウッドストックのマジックが何なのかよく理解していたのだなということを僕はこの本を読んでびっくりさせられた。
 ヒッピーの終わりと言われるオルタモントの失敗の理由もこの本を読めばよく分かると思う。マイケル・ラングはすごく暖かい人間だけど、すごくドライでもある。オルタモントの悲劇を記録したストーンズの映画『ギミー・シェルター』にマイケル・ラングが出てくるのだが、バッド・トリップした人間をすごくドライに突き放しいる部分が撮影されていて、とっても興味深い、全てを助けようという人ではけっしてない。ちゃんと自分の役割を分かった人なのである。
 この本を読めば、ウッドストックがちゃんとビジネス・センスがある人によって、動かされていたのがよく分かると思う。
 そして、アメリカというのはベンチャーの国だなというのがよく分かる。一度フェスで失敗した人間でも、またアイデアがよければちゃんと投資する人間がいるというのが凄いなと思う。日高さんがフジロックを実現するのに、十年以上の準備期間がかかったのに、マイケル・ラングはたった2年ほどでこんな凄いことが出来るというのは、やはりうらやましいなと思う。
 でも、この本をちゃんと理解出来るなら、きっとあなたも素晴らしいことが出来ると思う。凄い商売のヒントが語られているんですよ、この本には、歴史を変えた人のレシピが詰まっているのです。

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