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『sakanaction』

サカナクション

[label: ビクターエンタテインメント/2013]

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text by 有泉智子(MUSICA)

Jポップからバンドシーン、アンダーグラウンドなクラブミュージックまでを繋ぐ音楽と「場」の創出ーー
そんな、この国においては極めて困難な命題を掲げてアグレッシヴな活動を続けてきたサカナクション。
ここ1〜2年の中でMステからTAICOCLUBまで縦横無尽に駆け抜けながら飛躍的に知名度を増した彼らは、
バンドを取り巻く状況が過去最高にメジャー化し、
そして語弊を怖れずに言えば音楽カルチャーの中で最も「ヒップ」な存在と化した今のタイミングで、
自分達の信念と意志を今まで以上に強く、色濃く音楽として結実させる作品を作り上げ、
満を持してのセルフタイトルと共に打ち出してきた。
それがこの6枚目となるアルバム『sakanaction』だ。
美しいメロディと時代や人間の深淵を突く秀逸な言葉で綴られた、フォークと歌謡曲の血が濃い日本的な歌と、
ダンスミュージックを「フォーマット」ではなく「精神」の部分から正しく消化した上で鳴らされる
形骸化したダンスロックとは明確に一線を画したトラックおよびサウンドデザイン。
人間と時代の深淵を歌うシンガーソングライターとしての山口一郎の才能と、
テクノ/エレクトロ以降のバンドミュージックが切り開くべき
新しい感性および可能性が見事な融合を果たしたこのアルバムは、
サカナクションという思想とアイデンティティがひとつの音楽的な完成を見た記念碑的な作品であると同時に、
これまでの彼らの作品群の中でも最も挑戦的で、最も挑発的なアルバムである。

様々なインタヴューで山口が語っているが、
このアルバムについて、メンバーは制作初期から「表裏一体」をテーマとして掲げてきた。
「表」とはつまり、シングル曲である“僕と花”や“夜の踊り子”、
あるいはシングル化はされていないもののTV番組の主題歌である“Aoi”のように、
タイアップを絡めながら世の中に広くリリースすることを念頭に作っていった、
さほど音楽に興味がない大衆層にもアピールし、音楽というものの面白さを気づかせ、巻き込んでいくという
ある種の使命を託したポップス性の強い楽曲群。
対して「裏」は、テクノやダブ、アンビエントといったJポップ/Jロック以外の要素を多分に含んだ、
メンバーの音楽的な嗜好や興味、実験精神をより強く反映させた、
よりコアな音楽リスナーの耳をも納得させ、かつ、新たな感覚と興奮を呼び覚ますタイプの楽曲群
ーーつまり、乱暴な言い方をすればミュージシャンとしての純粋な欲望を全開にした楽曲群。
実際、本作にはその両極が絶妙なバランスで落とし込まれている。
「歌を主軸に据えた普遍的なポップミュージックを、
いかにして『今』の新しい感性と音楽性で更新していくか」というテーマは
それこそトム・ヨークのAtoms For PeaceからJames Blakeらを筆頭に果敢な挑戦が行われているが、
サカナクションのこのアルバムも、大袈裟ではなく、それと同じ文脈の中にある作品だと思う。

ゴスペルのような、厳かでありながら歓喜のフィーリングが漲るコーラスワークで幕を開け、
Aoki Takamasaとのコラボレーションによる抑制されたミニマルテクノが展開するM2“INORI”から、
実質的なリードシングルであり、ドラマ主題歌としてお茶の間にも流れまくったM3“ミュージック”への
革新とポップが見事なハーモニーを描く音楽世界は本当に素晴らしいし、
近年のこの国のポップミュージック・シーンではあり得なかったものだ。
ちなみに“ミュージック”という曲は、アルバムへと向かう真っ新で自由な発想から制作が始まり、
アルバムのリード曲として梶を切った後、完成直前になってドラマタイアップが決まったという経緯を持った楽曲。
私はこの曲こそ、彼らの言う「表裏一体」がまさに1曲の中で果たされた、
まさに今のサカナクションを最も端的に表す代表曲だと思うし、
エレクトロニック/ダンスミュージック以降のポップソングの、素晴らしく美しい最新型だと思う。

『sakanaction』は見事オリコンウィークリーチャートで初登場1位を獲得。
つい先日からは、ファイナルに幕張メッセ2days(4万人動員)を据えた全国ツアーもスタートした。
サカナクションと『sakanaction』を通して、初めて音楽に触れるというキッズもたくさんいるだろう。
このアルバムが開いた扉によって、再びバンドミュージックは、音楽は、
かつてそうだったように「それを手にした次の瞬間から、新たな日常が始まる」期待感と昂揚感を
多くの人々に与えるようなカルチャーとして復権できるのか。
サカナクションのみならず、この国の音楽シーンにとってもひとつのターニングポイントを予感させる作品。

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