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Ghost Stories

『Ghost Stories』

COLDPLAY

[label: Parlophone (Wea)/2014]

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世界の中心の失恋歌

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text by 梅谷 裕貴

コールドプレイが2002年に出したアルバムの邦題は静寂の世界だった(ちなみに原題はA Rush of Blood To The Head、頭に血が上るという意)。それから12年の時が経ち、世界一のバンドとしての成功を収めたバンドの3年ぶりの新作は些か意表をついたものであった。
先行して公開されたPVの”Midnight”は前作までのプロデューサーであったブライアンイーノと共に作品に参加していたジョンホプキンスが楽曲を手がけたもので、彼特有のヒプノティックなアンビエントテクノとバンドが得意とする叙情的なムードが支配する世界を描いている。
ジョンホプキンスは先日行われたタイコクラブにて来日しており、まさにミッドナイト(深夜帯)のパフォーマンスで観客を深淵なる場所へと誘っていた。その後公開された”Magic”のPVではチャン・ツィーが出演し、2役をこなしたクリスマーティンとのドラマを繰り広げていた。そんな豪華な前振りをして発売されたのが今作である”Ghost Stories””となるわけだが、全体としては前作である”MYLO XYLOTO”から比べるとグッと抑制された印象であった。
イーノがプロデュースを務めた過去2作に比べて、表向きな装飾が後ろに下がり細かなプロダクションと全体を覆うアンビエンスが行き届いている。
新たに迎えられたプロデューサーであるポールエプワース(アデルなども手がける現代屈指のビッグプロデューサー)に変わった事が要因なのか、とも思ったが和訳された歌詞を見て気づいた事がある。
これは全て最近になって離婚したクリスマーティンの元妻であるグヴィネスパルトロウへと向けられた失恋の歌であったのだ。幾度となく繰り返される私とあなたの関係性は全て2人の過去と現在の投影であり、愛を呼び続けている。
何ともストレートすぎる内容だが、極々個人的なメッセージをここまで徹底したプロダクションで形にしてしまうのがビッグバンドの凄みなのだろう。
唯一残念なのが、今世界中で最も稼いでいるDJであろうEDMのプロデューサー”アヴィーチー”が参加した”A SKY FULL OF STARS”が軽すぎる点だ。
シンセサイザーを多様した”いかにも”なEDM展開なのだが、安いメロドラマに聞こえてしまうのが残念だなと思う。
結果として評価が非常に難しい作品ともとれる今作だが、商業的にもここまで成功したバンドが魅せる次の軌跡としては申し分無いものだと思うし多くの人に受け入れられる内容である事は間違いない。
アルバムの最後を飾る”O”では去って行った彼女に対して”飛び続けろよ、乗り越えていけ もしかしたらいつの日か、ぼくも並んで飛べるかもしれない”と繰り返している。この作品はクリスマーティンにとって自身をゼロに戻すための記念碑であり、過去の自分(ゴースト)へと向けた鎮魂歌なのだろう。

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