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OUT OF BLUE

『OUT OF BLUE』

APOGEE

[label: SPACE SHOWER MUSIC/2014]

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ひとつの人格へのメタモルフォーゼ、あるいは完全なるオシリス

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text by 青野賢一(BEAMSクリエイティブディレクター)

 古代エジプト神話に、オシリス神話というものがある。エジプト神オシリスは、弟セトの策略にはまり、
自ら棺に入ったところを蓋をされ、ナイル川に投げ込まれ死ぬ。オシリスの妻であり妹でもあるイシスは
どうにかこの棺を見つけ出すが、再びセトによってオシリスの遺体は14の断片に切り分けられ、散逸して
しまった。イシスは舟で遺体の断片を探し出し、発見場所に祠を作って祀り、引き上げた断片を魔術で繋
ぎ合わせ「一時的に」オシリスを復活させた。

 2009年のアルバム『夢幻タワー』以降、解散宣言もないままバンドとしての活動がピタリと止まってい
たAPOGEEが、2013年秋、そして2014年春の単独ライブを経て、5年ぶりのニューアルバム『OUT OF
BLUE』を発表する。一聴して感じるのは、これまでの作品に見られたバンド的なアプローチの希薄さだ。
言うまでもなく、バンドは複数名のミュージシャンがそれぞれ楽器や唄を担当することで成り立つが、本作
ではそうした個々の「担当感」よりも、APOGEEというひとつの人格がはっきりと浮かび上がってくる。
 近年のエレクトロニック・ミュージックに目配せしたような空間的なシンセがイメージを形作りながら、
多彩なリズム、絶妙に変化するベースライン、真っ直ぐに届くボーカルという要素で構成される楽曲は、
まさしくこれまでのバンドサウンドの賜物であるわけだが、それぞれの要素がそれぞれの楽曲に対して
必要かつ十分な配置になっており(その理想的なかたちは例えばYMO『SOLID STATE SURVIVOR』
を想起されたい)、誰がどのパートということよりも、楽曲のよさが存分に引き立つプロダクションとな
っている。本作をライブでどのように聴かせてくれるのか? ファンにとっては楽しみではないだろうか。

 さて、冒頭に引いたオシリス神話で、オシリスは「一時的に」復活したと書いた。これには理由があって、
14の断片となった遺体のうち、男根だけが魚に食べられて見つけられなかったため、オシリスは一時的にし
か現世に留まってはいられなかったのである。それ故、オシリスは冥府の神となったのだが、APOGEEにつ
いては、メンバーが皆元気に揃って完全なかたちで活動を再開した。ちなみにオシリスは農耕や植物を司る
豊穣神。完全なるオシリスが、この世で再び豊かな音楽を届けてくれるようになったことを心から祝福したい。

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