FEATURE-INTERVIEW

坂本慎太郎

インタヴュー:河村祐介

絶望感みたいなものを抱えながら、音楽を聴いてるときは楽しくなりたいみたいなのがあるじゃないですか

 突然のゆらゆら帝国の解散宣言から、約1年半の沈黙を破って、ソロ・アルバム『幻とのつきあい方』を11月18日にリリースする坂本慎太郎。すでに先行配信シングル「幽霊の気分で」や7インチ・シングルを聴いている人も多いだろう。期待を持ってアルバムのサウンドを想像している人も、戸惑いを感じている人もいるかもしれない。
 ギターに加えて、ベースやキーボードなども坂本自身で演奏し作られたという、このファースト・ソロ『幻とのつきあい方』。そこには『空洞です』で魅せた腰砕けなサイケデリック・ロックの延長線とは簡単に言うことのできない、さらに別のなにかが生まれている。穏やかな表情は『空洞です』の延長と言えなくもないが、ここには『空洞です』よりもさらなるグルーヴのフットワークの軽快さと、飄々とした空気が全編に流れている。日常にするりと染み入ってくる軽快なポップ・ミュージック。そう言えるかもしれないが、その奥は底なしに深い。はっと気づくと、音に、メロディに、そして歌詞から生まれるイメージに集中してしまっている自分がいる。歌詞に行ききするのは諦念が入り交じったドライなノスタルジー。喪失感や孤独に対しても悲観よりもむしろ郷愁すら感じる。そして寄り添うはメランコリックなメロディ。それらを運ぶ軽快なサウンドは空気に溶けていく。圧倒的なサウンドの存在感に引込まれるというのがゆらゆら帝国のサウンドだったとすれば、こちらのソロはするりと心の隙間に入って居着いてしまう。絶妙な塩梅だ。
 ソロ活動を本格化させた、坂本慎太郎本人に、まずはこの作品について訊ねてみた。



── 具体的にどのくらいの時期にスタートしようと思ったのですか? ゆらゆら終わってからすぐにアイディアみたいなものはあったんですか?

坂本終わったすぐあとは抜け殻みたいになってて、なにもしてなかったですね。

── ではどのくらいからつくりはじめたんですか?

坂本作りはじめたのは去年の後半くらい。はじめは、なんとなく家で作ってて、そういう曲の断片があって……作品を出そうとかそういうのはなくて作っていたというか。

── 遊びとか趣味ぐらいのところで。

坂本そうですね。

── 逆に作品として作ろうと思った時期はいつなんですか?

坂本7曲ぐらいはたまってきて、年末くらいには作りはじめようかなと。

── アルバム自体のコンセプトみたいなものってあったんですか?

坂本特にどういうアルバムにしようみたいなコンセプトはなくて、まずはいま作りたい音を作っていくというか。まずはベースラインを作って、コンガとかパーカッションを重ねていって。本当は、はじめそれだけで良いかなと思ってたくらいなんだけど。それも試しに作ってみたんだけど、アルバムとして何度も聴く感じじゃないなって感じだったから。そこからギターとか、いろいろ足していこうってことになって。

── 今回はリズム隊からって感じなんですね。ちなみに作りたい音って、具体的にどんな音なんでしょうか、まぁ、聴くのが一番良いと思うんですが、言葉で説明するとどんなところなんでしょうか。

坂本ドラムとベースがミュートした、サステインのない軽い音で、ベースラインがヴォーカルと対になっている感じで、リズムはちょっと跳ねていて……。

── ゆらゆらでやれなかったとか、そういうカウンター的な部分ではなくて、単純にやりたいものをと。

坂本ああ、それはそうですね。

── さっき言ったような「作りたい音」に影響を及ぼしたようなリスニングの体験ってあったんですか?

坂本あ〜、たぶん、もともと好きなのがこういうのかなっていうのは思ってて。っていうのは、ドラムにリヴァーブをかけない、響きのないドラムの感じとか、ゆらゆら帝国の一番最初のレコーディングのときにそれをやりたかったんですけど。全部の音にリヴァーヴをかけないっていうのが好きで。それをそのときにやったら、本当にペラペラになっちゃって。リヴァーブって、かかってないと思っても、実はかかってるんだっていうのが当時気づかなくて。ようやくそれがいろいろわかってきて(笑)。もちろん、実際の録りは、中村(宗一郎)さんが録ってるんですが。

── 本作は基本的にベースなどはご自身でプレイしていて、ほぼご自身で作ってるわけですが難しさみたいなものってありましたか?

坂本単純に時間がかかるっていうのがありましたね。フレーズを作って、それを弾けるようになるまで練習してから録音するとか。それはベースだけじゃなく、ギターも、ちょっと入ってるオルガンとかもそうなんですけど。あとは一緒に録るのと、バラで録るので現実的に時間がかかるとかそういうのもあるんですけど。全部自分でやってるから、「こういう音を入れるためにここは抜いておく」とかは考えやすかったんだけど。

── バンドで作るのと決定的に違った部分は、どんなところでしたか?

坂本ドラムは自分で叩いてないけど、バスドラとスネアとハットのオープンの位置とか決めて、それに対するベースラインを作って、それを人力に置き換えてやった感じなんで、やっぱり全部の部分に自分の癖とか、自分の気持ちの良いタイミングになってるというか。バンドのときは、僕がギターを弾いて歌って、それに対して、どういうドラムとかベースが帰ってくるのかというところから発展していって、そこに石原(洋)さんがレコーディングでいろいろアレンジしたりとかあったんで。だから今回のはかなり純度というか、自分度が濃縮されていると思う(笑)。それがいいのか悪いのかは別として。

── なにかのインプットからの影響というよりも、すべて、自分のアウトプットのコントロールのみで作ったアルバムということですよね。

坂本そうですね。ただ、こういうのがやりたかったからバンドを解散したってわけじゃないから。他にだれもいないから、しょうがなく自分でやったって感じです。

── 逆に、ひとりで出すことのプレッシャーみたいなものってありましたか?

坂本プレッシャーっていうよりも、むしろ自分で納得できるものができれば、それがみんなにがっかりされても全然気にしないっていうのはありましたけど。自分のなかで基準を超えるもの……まぁ、できなければ出さなければ良いだけの話なんで(笑)。

── アルバム1枚として、構想みたいなのができてきたのっていつぐらいの時期なんですか?

坂本曲が揃う前に、全体の、コンガ入ってる感じとか曲の質感は完全にあったので、そこからはじめていったという感じですね

── 制作期間が昨年末から今秋までというと、丁度制作途中にあの震災があったわけですけど。なにか前後で変わった部分ってありますか?

坂本まぁ、歌詞の内容には影響があるとは思いますけど、地震によって、その前からアルバムの音の質感とか方向性が変わったとかはないです。

── いま歌詞の話がでましたが、例えば“傷とともに踊る”とか、そういう震災について傷ついたこころについて歌った歌詞とも、ラヴ・ソングともとれると思ったのですが。

坂本すべてにおいてなんですけど、ラヴ・ソングにとれるように作ってある曲でも、そういう意味もあるのかなって思ってしまうようになっちゃいましたよね。それは僕の曲に限らずだと思うけど。聴いてるほうの想像の余白みたいなものがある曲って、震災とか原発の事故以降、絡めて考えられなくもないっていうようなことが増えてきてる気がしますけどね。

── 発する側というよりも、受け手としてそう考えてしまうようなことが増えてしまったていうことですよね。

坂本実際、さっき話に出た曲(“傷とともに踊る”)に限らず、影響がないっていうのはないと思うんですけど。

── でも、それをメッセージとして、その部分を出しているわけではないというか。

坂本いま聴きたい歌詞がある曲って言った場合に、現実を忘れるような、現実とは全く関係のない夢みたいな歌とか、現実離れしたことを歌う、逃避するための曲は聴きたくないと思ってて。そうかと言って、現実がいかにひどいかとか、そういうことをもう1回聴かされるような曲も聴きたくないし。絶望感みたいなものを抱えながら、音楽を聴いてるときは楽しくなりたいみたいなのがあるじゃないですか、そうしたときにいちばんしっくりくる歌詞っていうところで、自分のなかでこんな感じかなと思って。前向きな曲というか、がんばろうみたいな、力合わせてとか聴いたら、俺は聴いてると逆に落ち込んじゃうし……。でもなんもなかったことにするのも嫌だし。

── 歌詞に関してもう1点、“幽霊の気分で”をファースト・シングルにもってきたっていうのは、ある意味で、ソロになるっていう宣言も含めてのあの歌詞なのかなって深読みしてしまったんですが。こう、これから自由になにをやろうか的な。

坂本そういうわけじゃないんですけど、いまのこの状況で、絶望感とどう折り合いをつけて生きていくかというときに……っていう曲ですね。絶望感……世の中全部というか。現実的にやることはやるんですけど、そこで音楽をするっていうときに、いま音楽で歌詞でなにを歌うかっていうところですね。

── 『幻とのつきあい方』っていうタイトルは?

坂本最初曲のタイトルとしてあって、アルバムのタイトルとしても良いかなと思って……理由はそのさっきのことをそのままもう1回言うことになる感じだから。

── ちなみに自分でレーベルを作ったのは?

坂本う〜ん、自然の流れでこうなったとしか、これも言いようがないかな。自分でやるのが良いのかなと思って。

── あと初回盤にはインスト・アルバムが2枚組で付いてるようですが、これは?

坂本インストも一応、ミックス・ダウンしてあって。で、それが妙に良くて。コーラスが一杯入ってるんで、メインのヴォーカル抜いて、コーラスだけっていう分量がすごい良かったので、なんかコレも発表したいなって思ったんだけど、それ(インスト)だけ売るっていうのもね……。だからおまけでつけて。

── この編成だとライヴは事実上不可能じゃないですか? でもベーシストを見つけてくるなりすればライヴもできないことはないと思うんですけど、ライヴはやるつもりないんですか?

坂本う〜ん、なんか自然にやりたくなるとかそういう発想が生まれるまで、やらなくて良いかなと。

── いまの段階では録音ものの方が、自然に出てくると。

坂本というか先のことを全然考えてなくて。まずは目の前のアルバムを完成させるだけを考えてやってたんで、あとは、なりゆきです。もう、できたんで、とりあえず。


  • 『幻とのつきあい方』(zelone records)
  • 坂本慎太郎

11月18日発売! 待望のソロ・ファースト・アルバム。幾人かのゲスト・ミュージシャンが参加しているが、ギターに加えて、ベースやキーボードなどそのほとんどを自ら作り上げたという、まさにソロ・アルバム。空気を捉えた“間”が、そして絶妙に軽快なグルーヴの“抜け”が作り出すストレンジなポップ・ミュージック。初回盤にはインスト盤も付属。

坂本慎太郎
1967年9月9日大阪生まれ。1989年 ロックバンド、ゆらゆら帝国のボーカル&ギターとして活動を始める。21年間で、3本のカセットテープ、10枚のスタジオアルバム、1枚のスタジオミニアルバム、2枚のライヴアルバム、1枚のリミックスアルバム、2枚組のベストアルバムを発表。2006年 アートワーク集「SHINTARO SAKAMOTO ARTWORKS 1994-2006」発表。2010年 ゆらゆら帝国解散。解散後、2編のDVDBOXを発表。2011年 salyu×salyu「s(o)un(d)beams」に3曲作詞で参加。自身のレーベル、zelone recordsにてソロ活動をスタート。2011年11月、ついに待望のソロ・アルバムをリリース。

http://zelonerecords.com