FEATURE-REVIEW

FIRE

トリプルファイヤー

FIRE


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text by 三木邦洋(タイムアウト東京)

トリプルファイヤーを形容するな

「すごいカッコイイ人はすごいカッコイイことをそのままやればいいし、カッコ悪い人はカッコ悪いことをやればいいし」
“佐藤伸治(フィッシュマンズ)ロング・インタビュー「静かなリアル」”『Quick Japan』VOL.18 より

のっけからトリプルファイヤーに関係のないバンドからの引用で恐縮です。誰もが上記のことを実践して、それが音楽として成立するわけではもちろんありませんが、優れたポップスやロックに共通する真理とも言えますし、誰よりもそれを追求していた佐藤氏だからこその、流石の発言です。

トリプルファイヤーの音楽を聴いていると、この言葉がいつもよぎるのです。歌になる感情や風景にアリもナシもない。レアグルーヴを研究したからといって、歌詞のエモーションまでそれにひきずられる必要も無いのだ、本来は、と。そしてそれができるのは、常識や尺度に影響されない無重力空間に生きる才人たちだけなのだということを。トリプルファイヤーの音楽は確実に、我々が聴いたことのない何かに向かっています。

トリプルファイヤーのことは、私がバンドをやっていたころにちょくちょく新宿や池袋のライブハウスで観ていて、当時からファンでした。2012年ごろだったと思います。1枚目の『エキサイティングフラッシュ』がどうしようもなく好きで、2枚目の『スキルアップ』が出たあたりから順当に売れはじめて……まさか「タモリ倶楽部」出演にまで上り詰めるとは。上る先が予想外の方角だったのには本人たち含め誰もが驚いたと思いますが。世の中捨てたもんじゃないなとという感慨も抱えつつ、ボーカル吉田靖直氏に対するタモリさんの「君はお笑いをやったほうが良いよ」という発言に、トリプルファイヤーというバンドがこれから対峙するかもしれない苦難が見えた気もしました。リスナー層が広がると、相当に誤解されやすい性質の音楽であること。「まじウケる」バンドとして消費されて、ましてやバンド側がそれにおもねるようなことになったらどうしよう、と。

遠目に、そんな危惧をぼんやりと持っていたものだから、新作『FIRE』の内容は痛快に響きました。歌詞は、『エキサイティングフラッシュ』の時代から変わっていっています。ざっくりと言うと、「わからないけど、わかる」詞から、「わかるけど、わからない」詞へ、だんだんと移行しているように見えます。これを言うと身も蓋もないのだけれど、坂本慎太郎の歌詞にも似たような移行がありました。吉田氏が、自分にしか歌えないことの純度を上げることに注力している証拠だと思います。ぱっと聴きの面白さとか印象のパンチ力で言ったら、多分初期のほうが上ですが、そちらの方向に進まず、音楽的探究に進んだバンドに拍手を送りたいです。そう考えると、ピーター・バラカンからラブコールを受けたことも、不思議なことではないのかも知れません。カリスマ性ゆえの世間からの色物扱いをはねのけた先達たち、江戸アケミや清志郎も、きっと天国から応援しているはず(?)。

歌詞とサウンドのいびつな同居は彼らの魅力のひとつでしたが、『FIRE』において5曲目の『有名な病気』が特に異彩を放っているのは、それらの自然な一体化があるからでしょう。ノーウェイブ的なささくれっぽさとも、和製レアグルーヴ的なゆるさとも違うファンクネスがあり、これはライブで聴いたら相当クールなグルーヴがありそう。

『FIRE』では、ほとんどの楽曲をギターの鳥居真道氏が作曲していて、いよいよ「高田馬場のジョイ・ディビジョン」「だらしない54-71」という形容が当てはまらなくなってきています。レアグルーヴ、特にアフロリズムに相当な造詣がある鳥居氏のプロデュース能力が、爆発してきている。リズム隊のイイ仕事ぶりは昔から定評がありましたが、今回はミックス&マスタリングをillicit tsuboi氏が担当したことで、トルク百倍といった塩梅。

志ばかり高いものだから背伸びをして、俗っぽいことを言ってたり考えたりして、後々自己嫌悪になる。そんな情けない自分は受け入れたくない。そこが彼らの出発点であり、原点なのは変わらないだろうけれど、底知れない音楽的なポテンシャルが発揮されて行くのはこれからに違いない。まだトリプルファイヤーを形容してはいけない。そんな確信が、『FIRE』にはありました。

トリプルファイヤー『FIRE』発売記念ワンマン “アルティメット パーティー 4”

日程:2017年11月16日(木)
会場:恵比寿LIQUIDROOM
開場 18:30 / 開演 19:30
前売り : ¥2,800(tax in / without drink)
トリプルファイヤー吉田 靖直(vocal)鳥居 真道(guitar)山本 慶幸(bass)大垣 翔(drums)
2006年結成、2010年に現在の編成となる。「高田馬場のJOY DIVISION」「だらしない54-71」などと呼ぶ人もいた。ソリッドなビートに等身大の歌詞をのせていてかっこいい。人気がある。メンバーはみな性格が良く、友達が多い。