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FACT & LIQUIDROOM presents VALENTINE ROCK

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 一粒のチョコレートより、一曲のラヴソングのほうが僕らに愛をもたらす。さあ、愛のロックを歌おう!――と投げかけるVALENTINE ROCKが、去年に引き続き、今年もリキッドルームで開催された。
18時、DJ開始と共に開場。この夜だけの特別ドリンクメニューとしてチョコレートリキュールであるGODIVAが用意され、500個のみかんが無料で配られた。甘い香りが漂う中、このイベントの仕掛け人である鹿野淳のDJに誘われて、会場に次々と人が集まっていく。前柵が取り外されたフロアは、とてもゆったりとリラックスしたハッピーな雰囲気で、いつになく開放的。それぞれの楽しみ方をするには十分な様子で、集まって来るお客さんの表情も心なしか幸福そうだ。

この夜の一番手を務めたのはsleepy.ab。圧倒的な唄の力と空間的なバンドサウンドが交わり、幻想的な楽曲の世界観をそのままに、研ぎ澄まされた演奏は広がりを持ってフロアを支配していく。「遠まわしですが、愛の歌を」というVo成山のMC。内へ内へと投げかけられる詩世界と繊細に紡がれたその音楽は、いつだって一人ぼっちの私達に優しく寄り添ってくれる。透明感と浮遊感、その裏側に秘められた奥深さ。淋しくも温かい楽曲は心の奥の方へと染みてゆき、懐かしいような気持ちにさえさせられる。最後に演奏された新曲の『ねむろ』は美しいメロディーが冴えるsleepy.abの真髄とも言える名曲で、轟音に包まれた光の射すような美しいラストに涙を見せる観客の姿もあった。

続いて鹿野淳がパーソナリティを務めるTOKYO FM / JFN38局でのラジオ・プログラム『discord』による、くるりの公開インタヴュー収録。オンエアは2月17日だったのだが、聞かれた方も多いのではないだろうか。内容はバレンタインの思い出話から、今後のくるりの方向性といったところまで盛りだくさんで、終始笑いの絶えない和やかな収録となった。

「軽いアカペラから始めます」と一曲目の『KIDS』が唄われると、会場の空気がまた一段とほころび、温まってしまう。これはおとぎ話だからこそなせる魔法なのだろうか。スーツ姿でステージをちょろちょろと動き回り、満面の笑みで唄うVo有馬が、真っ直ぐな唄に乗せて観ているこちらまで自然と笑顔になるくらいの幸せな気持ちを運んでくれる。意外なゲストもあり(なんと有馬の実の弟が登場!) 、新曲のお披露目もありで、バラエティに富んだ賑やかなステージ。こんなにお茶目で、すごく真面目に、正直に音楽を楽しんでいる人間臭いバンドそうはいない。この夜はアンプラグド・スタイルでの参加となったのだが、意外にもそれがよく似合っていたのが印象的だった。

 今回のイベントでは紅一点の榎本くるみ。彼女の唄う姿には祈りにも似た神聖さが宿り、柔らかくも芯のある美しい歌声の、そのあまりの力強さに驚く。華奢な体から発せられる信じ難いほどの凄まじいパワーは決して威圧的ではなく、むしろ無防備に不安や弱さを曝け出し希望を叫ぶ彼女の姿は共鳴を誘い人々を巻き込んでいく。「今日はスペシャルな日なので」と披露された新曲である『未来記念日』はキャッチーとも言えるほど人なつこいメロディーに伸びやかな歌声が本当に気持ちいいにも関わらず、胸が締め付けられるような切なさもあった。彼女の音楽は聴き手の内面の深い場所に忘れ去られた過去や未来に語りかけ、今を誠実に生きる為の勇気、あるいは優しさに似た何かを見つけ出す手助けをしてくれる。

 アコースティックギターを一本携えてふらりと現れた岸田繁はちょこんと椅子に座り、一筋伸びた照明のもとに自然に落ち着いた。「やる曲決めてないんですよね。さて何やろうかなぁ。」と飄々としたMCには笑いが起こり、いい意味で肩の力が抜けた親密な時間を共有していることを実感する。『りんご飴』から始まったこの弾き語りは、結果的にはくるりの楽曲を中心としたセットリストとなったが、途中にはサニーディ・サービスの『白い恋人』のカヴァーという意外な選曲も。それぞれ歌とギターのみというシンプルな構成なだけに楽曲の良さが際立ち、人柄滲む味のある歌声や表情あるギターがそれを盛り上げる。彼の作り出す音楽空間は、いつものように心地よく私達の心象風景に溶け込み滲んでいった。岸田に対する聴き手の絶対的な信頼感の所以がよくわかる、温かく素敵な時間だった。

 ついにこの夜のヘッドライナーである曽我部恵一BANDの登場。円陣を組み、「おーっ!」と気合いを入れる4人の姿はすでに眩しい。『恋人たちのロック』が鳴らされた瞬間に今までのゆったりとした雰囲気はがらりと変わってフロアの熱量は一気に上がり、それは半端ではないスケールであっという間に会場全体を呑み込んでしまう。とにかく楽しくて仕方がないというような4人の笑顔溢れる演奏と、そこから生まれる最上級のグルーヴ感には、自然に体が揺れ拳を突き上げるばかりだ。何度も観客と共にシンガロングや手拍子をする場面があり、それはまた一段と会場を沸かせ、笑顔で満たしていった。遊び心いっぱいの子供のような大人たちによる確かなロックンロールからは、バンドのこれ以上にない充実が伺える。こんなにも幸福で楽しい空間を作り出せるバンド、メンバー全員がダイブしてしまうほど自分達が楽しんでいるバンド、他に全く思いつけない。この日のラストを締め括るに相応しい、音楽愛に溢れた素晴らしいアクトであった。

sleepy.ab
1・なんとなく
2・インサイド

3・雪中花
4・メロディ

5・ねむろ
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おとぎ話
1.KIDS
2.FLOWER
3.SMILE
4.おとぎ話の愛のテーマ(新曲)
5.NIGHTSWIMMING
6.ハローグッバイ
7.BOYS DON’T CRY

M2,3,6は3/5release『ハローグッバイep.』収録曲です。
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榎本くるみ
1RAINBOW DUST
2ビューリフォー
3リアル
4未来記念日
5愛すべき人
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岸田繁(くるり)

1.りんご飴
3.春風
3.白い恋人(サニーデイ・サービス)
4.さよならストレンジャー
5.ジュビリー
6.RENNWEG WALTZ
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曽我部恵一BAND
01 恋人たちのロック
02 トーキョー・ストーリー
03 ジュークボックス・ブルース
04 ハルコROCK
05 結婚しよう
06 テレフォン・ラブ
07 キラキラ!
08 青春狂走曲
09 STARS
~アンコール~
10 魔法のバスに乗って
11 mellow mind

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