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NICO Touches the Walls

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メジャーデビュー一発目の東名阪ワンマンツアーラスト、といえば自然と期待も募る。この日のLIQUIDROOMは開演はおろか会場前から客の熱気に溢れていた。

ツアー名を冠したモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」をSEにしてメンバーが登場。フロアの熱気をいなすように、宥めるようにしっとりと歌い上げられる『行方』で幕を開けたこの夜のライブ。ミニアルバム三枚、プリミティブディスク一枚にメジャーデビューシングル一枚。その中から「初めての方にも楽しんで貰えるように」と選ばれた曲の数々が次々と披露されていく。

が、しかしNICOの曲にははっきり言って気の抜きどころが無い。絡み合う四人の音が腹の底からグルーヴを引きずりまくる、例えば『アボガド』『泥んこドビー』『武家諸法度』『そのTAXI,160km/h』等の曲。これらはグルーヴの重さだけでもおなかいっぱい、というぐらいに圧巻の演奏でもって披露されるがライブでは更に、随所随所でソロプレイが挟まれる。特筆すべきは両サイド、ギターとベースのソロ。古村の感情的であるが故にこちらのテンションをダイレクトに揺さぶるギター。坂倉の冷静に、しかし攻めて攻めて煽りまくるベース。どちらも対馬のビートに支えられて、耳だけでは充分に受け止められないほどの熱量で持って聴く者へと魅せ付けられる。そして、光村のボーカルのメロディライン、言葉が魅力的な曲の数々。冒頭の『行方』や『image training』『梨の花』などがそれに当たるだろうか。耳当たりの優しい、しかし力強く粘度すらある表現力を湛えた光村のボーカルが語る言葉を、楽器が深く広く彩っていく。言葉を音が補い、音が言葉をより磨き上げていく楽曲の数々には無意識のうちに意識を惹き込まれる。スローナンバーが無い、バラードが無い、と言う意味ではなく心が落ち着く暇が無い。常に感情を揺さぶり続けながら繰り広げられるNICO Touches the Wallsのロックンロールの前に、フロアはただただ大歓声に包まれ、時にハンドクラップや向けられたマイクに大合唱で応えていた。

新曲『ほっとした』は光村のアコースティックギターをメインに、古村がヴァイオリンのような繊細な柔らかな色合いを添える美しいラブソング。光村のメロディラインを広げる古村の演奏はギター、と言うより「弦楽器」を演奏しているかのような多彩さで、その新しい一面をアコースティックバージョンに載せて披露してくれた。

終盤、『バニーガールとダニーボーイ』でガンガンにフロアを踊らせた後、故郷へ捧げる『梨の花』を披露。光村のボーカルが優しい情景をこれでもかと歌い上げて本編は幕を閉じた。

が、続きを望む惜しみない拍手に呼び戻されて再度ステージへと戻ってくるメンバー。暗闇を真っ青な光が射抜いたかと思うと音が鳴ったと同時に会場を無数の星が埋め尽くす。ワンマンライブごとにこだわりの演出をするNICOならでは、と言うべきか。青と白の豆電球を無数に巡らせ、ライブハウスをプラネタリウムのように、まさに夜のど真ん中にしてしまった。ロマンチックな演出に歓声が上がりながらの『夜の果て』。ツアータイトルにちなんだ名曲はアンコールでの登場となった。メジャーデビューシングルとしてNICOの名刺代わりに相応しい、イントロから胸を焦がすような楽曲が圧倒的な表現力でもって会場全体を魅了していく。次いで新曲『THE BUNGY』のお披露目。既存のダンスチューンのイメージを覆すほどに躍らせまくる、まさに下半身を攻めまくりなキラーチューンの登場にフロアも沸点を優に超え、自然とクラッピングが巻き起こる。早弾きで撃ち出されるギターと、これでもかとグルーヴのツボを叩き付けるベースが交互にせめぎ合いながら曲を盛り上げ客を乗せていく。横ノリで散々躍らせまくった挙句にバンド名を想起させる『壁』。あれだけ踊らせておいて人が悪い、と悪態をつきたくもなるがダンスナンバーで練り上げたグルーヴ、テンションそしてフロアの熱気の全てを光村はその表現豊かなボーカルでもって見事に曲に落とし込んでくれた。目を瞑って体の、意識の内側に音の要素を全て受け入れ沁みこませたくなる程に聴き応えのある演奏を最後に、NICOのメンバーはカーテンコールでフロアに一礼をし、ステージを去って行った。

どの曲においても言えることだが、NICOの曲は瞬発力を持った音を発してはいるが、全てが奇麗な曲線で繋がっていく。弾力を持った音色が途切れること無く、螺旋を描きながら、ロールしながら紡がれていく様はまさにRock and Roll。J-ROCKなどという軽い語感には決してカテゴライズ出来ない、だが時代にマッチしたニュアンスもしっかりと併せ持つNICO独特のグルーヴはCDでも遺憾なく発揮されてはいる。しかしそれ以上の、まさにバンドの存在全てで撃ち鳴らす彼らの曲の魅力はライブでこそのもの。この四人が生身で作り上げるグルーヴを、曲の存在感を、醸し出す空気を体感して欲しい。個人的には、意識的に音楽を聴き始めてから早数年、若手には何だか食傷気味、音楽の趣味も落ち着いてきてしまった、なんていう方にこそ聴いて欲しい。好きなアーティストに出会い、その人たちのルーツを辿りながら過去の色々な音楽にも触れ、その上で貴方が現在の邦楽シーンに魅力を見出したいなら、私は間違いなくNICO Touches the Wallsをお薦めする。一聴するとキャリアにそぐわぬほどの完成度の高さ、堂々とした演奏に敬遠したくすらなる人もいると思うが(事実私がそうだった)それはクオリティの高さから来るご愛嬌。いまや純粋な一リスナーとして彼らの曲に出会う人が一人でも多ければ、と何故か思ってしまう。時代を共にしている中で一度は出会っておいても、決して損はないはずだ。

かつてのライブで光村は「メジャーに行ったからどうとか、そういうこと言うなよ」と冗談めかして言っていた。リスナーの中にメジャーへ行くことに伴う何らかの変化を危惧した人もいるかもしれない。しかしNICOは以前と何ら変わらず、寧ろそれ以上に格好良くて楽しいライブを魅せ続けてくれる。そして嬉しいことに、その魅力は今後を期待させる実感を伴ったものであることも確かだ。先ずはNICOの魅力を凝縮、しても溢れ出すほど湛えたメジャーシングル第二弾『THE BUNGY』(今ツアー大阪公演のLIVE映像を含む二枚組み)の発売を心待ちにしながら、今後の動向を楽しみにしたい。「三度目のLIQUIDROOM 出演がワンマン、しかも完売で嬉しい」とのMCが印象的ですが、四回目、五回目以降も完売にしてくれることも期待させて頂きます。

なお、NICO Touches the Wallsは今後も日本各地での強烈な出演者との対バンイベントの他、ARABAKI ROCK FES.、SWEET LOVE SHOWER spring 08、ROCK IN JAPAN FES.2008などのイベント出演も続々と決定している。どこぞで彼らの音楽に出会って頂けたら、と思います。

1.行方
2.アボガド
3.3年目の頭痛薬
4.(My Sweet)Eden
5.プレイヤ
6.武家諸法度
7.泥んこドビー
8.僕がいなくても地球はまわってる
9.ほっとした ~ April
10.そのTAXI.160km/h
11.GANIMATA GIRL
12.バニーガールとダニーボーイ
13.image training
14.梨の花

EN1.夜の果て
EN2.THE BUNGY
EN3.壁

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