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LIQUIDROOM 6th ANNIVERSARY presents  DREAM MATCH

LIQUIDROOM 6th ANNIVERSARY presents DREAM MATCH

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photo by Kaori Yamada

この国のラップ・シーンにおける、まさに夢の競演

 94年以来の記録的猛暑とも報道された2010年の夏。そんなうだるような炎天下の最中、〈LIQUIDROOM 6th ANNIVERSARY presents DREAM MATCH〉は執り行われた。これは当世日本語ラップを背負って立つ新旧豪華アクトが各々40分一本勝負のライヴで臨む、文字通りの“ドリームマッチ”である。

 まず先陣を切るのは若手最注目株、SIMON。いまはなきヒップホップ専門誌『Blast』の最終号にて、今後の日本語ラップシーンを担うであろうMCのひとりに数えられた彼の一番の強みは、その安定感だと言っていいだろう。この日も先ごろ発表されたミックステープ『TEQUIRA,GIN OR HENNY THE MIXTAPE』収録のUSジャッキン・チューンや自身の楽曲でフロアを沸かす。開演当初には万全でなかった客入りも、中盤を迎えるころには満員。サイドに盟友Y’sを従え、40分の持ち時間を全力でスピットして走り抜けた。

 次いで登場は町田レペゼン、ユーモアとペーソスの効いた語り口をストロングスタイルで聴かせるYAMAZINとSAGARAXXのふたり。FUNKY 4+1“That’s The Joint”やスチャ“サマージャム’95”ネタでおなじみBobby Hutcherson“Montara”、果てはBiz Markie“Just A Friend”といった絶妙なチョイスのビートを駆使し、ストーリーテリングする様は圧巻。先のSIMONとは180°逆のスタイルであるが、これももちろんヒップホップ。聴衆も彼のブルージーな語りに聴き入る。

 三番手はSHINGO☆西成。ど頭からQueen“We Will Rock You”で登場、その後もJay-Zのオケで大胆にジャックするなど、その傍若無人っぷりは見ていて爽快感すら覚える。お馴染みのUYC(言うてることとやってることがちゃいますね)~AKY(あえて空気読みません)コールを経て、ラストにはL-VOKAL、鎮座ドープネスとのアルコール賛歌“SHOCHU,ROOBEE,SAKE”をサプライズでライヴ初披露、と大いにオーディエンスを楽しませた。序盤からまさにスタイルウォーズともいうべき熾烈な異種格闘技戦が繰り広げられるなか、ひときわのアクの強さをアピールしたステージ。
 
 その後の幕間をDJ KOHAKUがタイトなDJセットで演出し、MSCのライヴがスタートする。ビートボックスの太華、待望のソロ作発表も近いTABOO1、PRIMAL、02、そしてMSC首領である漢が登場。ヘッズから熱烈な歓迎を受けながら、新旧曲からTABOO1 Feat. 漢による“ILL BROS”などの最新クルー内ユニット楽曲を披露。ちなみにこの日のMSCは漢によるバックインザデイズなフリースタイルや、曲間のMCに多く時間を割いたリラックスしたステージであったが、なかでも耳を引いたのはJurassic 5“Red Hot”を流用しての“まだいけるか?”のコール&レスポンス。このヴァースでは集団ラップの妙味を十二分に堪能できたのではないだろうか。

 パーティーも後半戦を迎え、5番目のライヴは般若。スタンドマイクでの扇動的なパフォーマンスは、彼が敬愛する長渕剛のそれを想起させる。人気曲“やっちゃった”や“夢の痕”などでフロアの熱を高めながら、中盤には10月に発売されるUSの大物プロデューサーSKI BEATZ監修コンピに収録の意味深な新曲“日本人ラッパー総選挙”のお披露目や、SHINGO☆西成の昭和レコード(般若の運営するレーベル)加入というニュースも飛び出し、ファンを喜ばせる。最後は『根こそぎ』収録の“サイン”でエモーショナルかつストレートなメッセージを投げ掛け締めるタイトなライヴであった。

 続くTHA BLUE HERB。これまで長くシーンに在籍しながらも、頑なにインディペンデントな姿勢を貫いてきた彼ら。そんなTBHのライヴを今日のようなラインナップで見られることを誰が想像していただろうか。いつも通り、DJ DYEをバックに真摯にメッセージを編むILL-BOSSTINO。曲間でボスが放った1st収録“Once Upon A Laif In Sapporo”から「証言の続きが聴きたい、東京への要件はそのくらい」の引用に会場はざわついたが、彼は「そう噛みついた頃は昔、いまや東京への要件がそれだけとは言わない」と付け加える。そしてCOMMON“Be”を敷いた“Brother”から“未来は俺等の手の中”で持ち時間の40分間を終了。最後の「このステージを汚さず、Zeebraに渡す」との言葉は長く日本語ラップを聴いてきたリスナーにとっては感慨深いものだったろう。

 そして本パーティーの大トリを務めるはZeebra。いわずと知れた、日本語ラップ・シーンをここまで大きくした立役者のひとりが登場である。冒頭の“真っ昼間”で往年のファンを喜ばせ、続く“Parteechecka”でフロアは狂喜乱舞。その後も新曲を交えながら、自身の残したクラシックを矢継ぎ早に投入。なかでも“Jackin’ 4 Beats”の途中に挿入された“証言”のヴァースからキングギドラ時代の楽曲“未確認飛行物体”、“大掃除”、“見回そう”と怒涛の3連発はヘッズなら涙もののサプライズだったろう。最後に彼が残した「どんなスタイルでやってようが、最終的にヤバい奴らは残る。今日ここに立っているベテランはそれをやり続けた奴ら。食い込んできた若い連中はそれを託されている奴らだ」という言葉に会場のBボーイ、Bガールが頷く。

 かつての伝説的日本語ラップ・イヴェント〈祭〉や〈雷おこし〉(ともに新宿時代ではあるが)を興行してきたリキッドルームで行われた真夏の熱戦。この日訪れた観客は、各アクトがベストを尽くし相対す姿を観戦し、真のBボーイ・シップに触れたことだろう。彼らがスピットし続ける間は、日本語ラップの未来は明るいはずである。
(高橋圭太)

<INFO>
・文中にありますがSHINGO☆西成がそれまでの所属レーベル〈LIBRA〉から〈昭和レコード〉に移籍が決定。11月に3年ぶりのアルバム・リリースも予定されている。
・こちらも文中にもある、当日、MSCの一員として出演していたTABOO1のファースト・ソロ・アルバム『LIFE STYLE MASTA』は10月22日にリリース。また、先行シングルとして“ILLBROS feat 漢”、10月15日に“禁断の惑星 feat志人”がiTunes Music Storeよりリリース決定。
〈LIBRA〉http://www.libra-ltd.net/
〈昭和レコード〉http://www.hannya.jp/

出演者のプロフィールはこちらのページから

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