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キセル

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しみじみと染みるライヴ

 キセルにとって6枚目のアルバムである名盤『凪』のリリース・ツアー秋編、千秋楽。途中間を空けつつも7月から続いたツアーの最終日とあって、リキッドルームは彼らの音楽を求めるファンで埋め尽くされた。
 
 キーボードにエマーソン北村、ドラムに北山ゆう子を迎えた4人編成で登場したキセル。この日のライヴはアルバム『凪』の1曲目でもある“うぶごえ”でスタートした。冒頭のアレンジは音源よりも空間的で、よりファンタジックに響き渡る。そして“春の背中”“ビューティフルディ”と続けて演奏に入り、会場は一気にキセル・ワールドに。

 なにかを堪えるように、噛み締めるように表情豊かでしなやかなドラムを叩く北山の姿は印象的だし、エマーソン北村の奏でるフレーズはさり気なくてシンプルだけど説得力に溢れている。辻村兄弟ならではのコーラスワークは相変わらずすばらしく、味わい深い。またそれらが揃ってバンドとして鳴らされる一音一音、そのすべてが、ぴたりとパズルがハマったときの様な気持ち良さで鳴っていたのが本当にすばらしかった。なんていうか、アレンジに一切の無駄がなく、極まっている感じ、というか。過不足のない、すごくバランスの良い感じ。
 そしてそれぞれのメンバーが時折満面の笑みをこぼしながら演奏する姿は、観ていてとっても胸が暖まるものであった。

 キセルのライヴは、実に素朴で温かだ。特別だけど、特別じゃない。これ、なんて言えば伝わるんだろうか。彼らのライヴは、日常の延長線上に存在する非日常なのである。どこまでも無防備で、まったくカッコつけていない(それがカッコイイのだけれども)。観る者を包み込むように、穏やかに鳴らされる音楽。

 辻村兄弟の掛け合いによる脱力感たっぷりのMCも相変わらずで、会場の笑いを自然に誘っていた。「僕らのMCってお茶の間的な、どうでも良い話ばっかりなんですけど(笑)」なんて冗談めかして言っていたが、“お茶の間”って言葉が実に似合うバンドだなぁと思った。変な喩えだとは思うが、“そこのあんた、ちょっとこっちでゆっくりしていきなさいよ。こたつにでも入って暖まりなさいよ”、と。そんな風に言われている気がしたのだ。ライヴを観ていてそんな気持ちになっちゃうバンド、なかなかいないと思う。

 もうちょっと具体的な説明をするならば、途中にはリズムボックスやミュージックソウ(弓で鋸を弾く楽器です)を使って、キセルのふたりだけで“くちなしの丘”や“星のない夜に”を披露したのだが、それもすごく良かった。構成がシンプルになればなる程、曲の良さ、唄の良さがわかる。
 しかしこの日一番のハイライトはなんといっても後半に披露された“ギンヤマ”、そしてアンコールで披露された“ベガ”だっただろうか。切なくも優しいメロディーに乗ってだんだんとステージに光が宿り、ゆっくりゆっくり増幅された光によって照らされた会場。じんわりと染み渡るメロディー。ため息が出るくらい、とても美しかった。

 繰り返すようですが、いまのキセルは本当に良いです。まだ観ていないひとは本当に観に行って欲しいと思う。間違いないから。(山田佳緒里)
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