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孤高のハードコア・バンド、envy! 美しすぎる轟音

 envyの通算5枚目のフル・アルバム『recitation』のリリース・ツアーの東京公演。
 『recitation』の1曲目でもある“先導”の荘厳なイントロが流れ、予定開始時刻を15分程過ぎて暗転した会場。ステージに一筋のスポットライトがあたり、そこにすっと浮かび上がるように登場したのはenvy……ではなく、女優の奥貫薫だった。新譜の1曲目とラストの曲は彼女によるポエトリー・リーディング、それを再現する朗読。彼女の透明感溢れる声と佇まいは不思議と温かな雰囲気を醸し出し、ゆったりと幻想的なライヴの幕開けとなった。それが終わるとまた暗転。瞬間、ギターのアルペジオが鳴り響き、次にステージに光が戻るとそこにはメンバーの姿が……。 大きな歓声が起こる。

 それからは怒涛のステージであった。

 切ないアルペジオや重なる印象的なリフ、不意に訪れる美しすぎる轟音。嵐のような曲展開。そこに重なる、絞り出すような、祈りにも似たヴォーカル。がっちりとした鉄壁のグルーヴの中で静と動を繰り返しながら徐々に精神を解放へと導いていくようなパフォーマンスが続く。
 セットリストは新旧曲を織り交ぜ、昔からのファンも最近のファンも楽しめる内容となっていた。ライヴの定番曲である“覚醒する瞳”や“左手”、“狂い記せ”はやはりこの日の沸点だったと思う。また“風景”や、“暖かい部屋”ではその叙情的なメロディーに心臓をぐっと掴まれ揺さぶられるような感覚に陥る。

 この日は珍しく、ライヴの中盤で長めのMCが挟まれた。

「俺らって、いろんなものを排除して、排除して……、排除しようとする特異な活動なので。広告も打たないし、インタヴューも受けないしね。いろいろ難しいです。でもこうやって人もたくさん集まってくれて、助けてくれる人も集まってくれて。18のときにはじめたバンドがまさかこんな風になるとは思いませんでした。バンドやってて良かったなぁと近頃本当に思います。皆さんどうもありがとう」

 そう語るヴォーカルの深川の穏やかな表情が印象的だ。envyはその自身の言葉の通りほぼまったくといって良いほどメディアに露出のないバンドなので、その言葉に触れるのには、ファンにとってはライヴでのMCが貴重になる。深川はまた、こんな風にも語っていた。

「なかなか生き難い世のなかですけど、俺は、好きなことをやっていくのは良いと思います。後々後悔するくらいなら、どんどんやっちゃえば良いと思います」
 
 そして新作を出した後に30日でライヴが25回というアメリカ・ツアーを行い、移動日以外の完全オフは1日だけだったこと、しかも帰ってから次の日にはすぐ仕事だったことを語った。それに対して不平不満を口にするのではなく、そういうものだと受け止め戦う姿勢に感銘を受け、激しく共感したのは私だけでは無いはずだ。宣伝や広告を一切せず、音源とライヴのみでいまの人気を掴んだ彼らの姿勢は、音楽に対してすごく真摯で、純粋だと思う。

 ライヴ後半には新譜から“0と1”、そして再び奥貫薫が登場して“君の手”を朗読し、緩やかに本編終了。アンコールでは“限りあるもの”、“さよなら言葉”という激しいナンバーで会場はまた沸点を迎えた。更にダブル・アンコールでは、「みんなで集まって最初に作った曲をやります」と言って“限りあるもの”を披露し、何度も会場を沸かせての終演となった。

 envyはバンドの立ち位置やパフォーマンス、音像、ストイックな活動姿勢、どこを切り取っても孤高のハードコア・バンドである。それを証明するような、真っ向勝負の、圧巻のアクトであった。(山田佳緒里)

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