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シンプルに力強く響く——9年ぶりのフル・アルバム『LUCK』




 実にフル・アルバムとしては9年ぶりとなる『LUCK』をリリースしたACO(作品としてはミニ・アルバム『devil’s hands』から1年3ヶ月ぶり)。
 本作は全編ACOによるセルフ・プロデュースで、その歌声を中心に、生楽器をメインとしたシンプルなサウンドがアルバム1枚を貫いている。そのサウンドの肝は、ACOの歌声をアルバム1枚を通して支える、バックを担う“バンド”の存在感だろう。元ナンバーガールの中尾憲太郎、toeの柏倉隆史によるミニマルで骨太なリズム隊を基礎に、ピアノなどがアクセントとなって展開される力強いサウンド。このゴツゴツとした音の迫力としなやかなACOの歌声とのサウンド上での対比が印象的な世界観を作り出している。それは、ACOを中心としたひとつの“バンド”としてのサウンド——ありがちな“シンガーと客演ミュージシャン”によるサウンドから一歩も二歩も進んだ、しっかりとバンドとして統一感を持ったサウンドを作り上げたと言っても過言ではないだろう。
 ここリキッドルームでも2月24日のイヴェント〈Cry Baby Cry〉にて出演する。新たな境地へと到達したアルバム『LUCK』について話を訊いた。


── シンプルで、骨太でという感じでアルバム全体の音像が統一されている、というのが、まず聴いた印象なんですが。

ACO今回はじめて「セルフ・プロデュースをして良いですよ」みたいな話になって。参加してるミュージシャンの人たちも同じくらいの世代で、好きなものが自然と似てるというか、同じジェネレーションで、私もいろんなジャンルの音楽を聴くんですけど、当然みんなも知ってて、そういう音楽とか、あとは映画とか好きなものが近くて。今回はロック色の強い方々に参加していただいてるんですけど、意外とこの形がすんなりレコーディングできましたね。

── もっと言えば骨太に感じるのはリズム隊の印象が強いのかなと。

ACO中尾くんがベースを弾いて、toeの柏倉(隆史)くんがドラムを叩いているので、骨太で、ロックな感じに自然になったんだと思います。

── たとえば制作のリファレンスにしていた、聴いてた音とかってあるんですか?

ACO今回は他の音楽をあまり聴かずに、レコーディングを終わらせようというのがはじめにあって。やはりレコーディング中に聴くと、多少なりとも影響を受けてしまうので、流行だったりとか、新しいものだったりとか、そういうものを聴いたりとか意識的にしなかったんですよ。

── インプットより、とにかくアウトプットに集中すると。

ACO今回、アルバムを作りはじめる前に、デモをしっかり作っていて。それからベースとかドラム、それぞれの楽器のパートで個々の専門分野のすごい人たちにそれぞれ叩いたり、弾いてもらって。だから、あまりこちらから“こういう感じで”っていうのがなく、参加しているみんなに一捻りしてもらって、ああいう形になったんですよ。流行を追ったりするのを一旦止めて、自分のなかからバランスのとれたやりたいことをもうちょっと追求してみたいなっていうのがあって。そういうところでブレは無かったですね。あとは、これまでだと毎回、いろいろとレコード会社とかから注文もあったり、そういうのが一切なかったんですけど。だから比較的に自由にやらせていただいたというか。

── 今回の参加アーティストに関して、いわゆる客演とかコラボっていうよりも、ひとつのバンドとして作ったという感覚が強いですか?

ACOそうですね。バンドではないですけど……比較的バンドっぽい感じだったのかもしれないですね。長い間、バンドってやったことないですけど……普段から仲の良いアーティストたちなので、作品を作るのにつきあってもらったという感じですかね。みんな私が持っていったデモ音源も楽しんで聴いてくれるんで。

── そのデモって、ご自分で打ち込みで作られるんですか?

ACOそうですね。今ってドラムの生のサンプルとかも普通にあるので、そういうのを使って作って。ベースラインとか鍵盤とかも。ギターで作った曲もありますね。そのデモを持っていって、みんなで完成させていくみたいな。作ってる途中でのやりとりは沢山しました。何度もみんなに集まってもらって。

── 今回は、セッション的に録って編集というよりも、とにかく最後の録るまでのプロセスがすごくしっかりしていたと。素材を持って行って、スタジオでつめるみたいな感じではなく、カチっとある程度作ってからという感じっすね。

ACOそうですね。

── じゃあ、ある意味でコミニケーションが本作を作るということにおいては重要な要素だったと。

ACOご飯を一緒に食べるとか、音楽を作ること以外の時間をすごすというのが重要だったりしましたね。

── 今回の参加アーティスト、いままで共演されている方もいれば、はじめての方もいらっしゃるじゃないですか? どんな感じで人選を?

ACO柏倉くんははじめてなんですけど、toeのライヴ……そうだリキッドルームでやった(映画)モテキのイベントでライブ出演した時に、山(山嵜廣和)ちゃんが観にきてくれて。その後に「toeのライヴも観に来てください」ってメールをもらって。「ぜひ行かせて下さい」って。そしたら当たり前ですけど、柏倉くんのドラムがすごくて。今回のアルバムも、ずっとつきあって叩いてくれましたね。

── 基本的に今回の参加メンツもACOさんが自分から声を直接かけられるようなアーティストさんってことですよね。

ACOいまの時代、私もメジャーにいたときとは違うので、自分でやらなきゃいけないことも多いので、地道に繋がっていきました。

── そのあたりで、自分でやるという部分で楽になったとか、活動として楽しくなった部分ってどこですか?

ACO無理な注文を受けないので、その部分ですかね。「作品をこういう感じにしてください」とか「この人とやらなきゃいけない」とかがないので、そういう意味では自然に音楽と向き合えるというか。その分、自分でやらなきゃいけない部分も増えると思うので。

── フル・アルバムのリリースとしては10年近くぶりになるわけじゃないですか? アルバム作るということに対して、例えば昔のファンが望んでいるものとの差異みたいなものって考えました?

ACOうーん、でも、いまの時代……あ、そういえば、いま杉山登志さん(テレビCM初期に活躍したCMディレクター)の本を読みはじめたんですけど、「あっ」って思ったところがあって。いまはツイッターとかいろいろと発言できる場所があって、普段の生活で出会わないような人達が、どういう音楽を聴いているのかとかが分かったり。昔ってそういうことがよくわからなかったんだけど。そのあたりで、嘘というか、「こういうことがあって、こういう感じになってる」というのも、出てきたものを見るとだいたいわかるようになってて。
 過去に〈ソニー〉にいたときも、私は自分のやりたい音楽をリリースしていたと思うんですけど、『Irony』とか、マニアックすぎてメジャーで出せる作品じゃないし。でも、結局、売り上げの数字が成績だとするのであれば、成功ではなかったかもしれないですけど。

── でも、あのときは作品として納得のいくものが残せたと。

ACOそうですね。あとはデビューした当時は18歳だから、私が言ってることなんて打ち合わせしても誰も真に受けて聞いてくれないというか。「いまの時代の流れはこうなんだから」って言われて方向性を決められて。当時だと“ディーヴァ”とか括られて、納得のいかないことも多くて。デビューするのがちょっと早過ぎたのかもしれないですね。あ、でも、あのときデビューしたからいまの私があると思えば、そうなんですけれど。作品に関しては、いままでもアルバム毎にガラっと印象が変わるなって思われるんですが、基本的に曲の作り方は今も昔も変わってないんですよ。使用する機材が変わったり、レーベルとか、フィルターが変わっただけで、っていうのがけっこう大きいかもしれないですね。

── ちなみに、いまにつながる転機になった作品ってどれですか?

ACO『absolute ego』ですね。その前に “Greatful Days”のヒットがあったので、わりと好きなことをやらせてもらえるような環境になったんです。ヒットがあると、まわりの態度が変わるので(笑)。まぁ、それはしょうがないというか。お金が動かないと、なにもできない状況になるから、みんな生活がかかってますからね。その頃の過去は自分自身が冷静に見ているというか。ずっと離れないで聴いてくるファンの方とか、がらりと曲調は変わってるけど、ACOにしか作れない曲だよねって言ってくれる人はいるので。今回は本当に良かったなと思って。売り上げはいまの時点ではどうなるかわからないですけど、評判はすごく良くて。あと、現場でのもめ事がなかったっていうのは、いままでなかったんです(笑)。

── さっきも出てきましたが現場で楽しく作れたというのが大きいと。

ACOそうですね。

── そのへんって音に出ていると思います?

ACO出ていると思いますね。今回、参加してくれたミュージシャンが作品を理解して支えてくれたたというか。

── 紙資料には生楽器を中心にした編成の、コンセプトとして「2010年代版クラシカル」というのが書いてあるんですが。そこに至る着想みたいなものってどこにあったんですか?

ACO昔からやってきたことで、自分がモヤモヤと悩んでいた部分をなくそうというのが、ひとつテーマにあったんです。具体的に言うと、打ち込みの楽曲に声を乗せるのは難しいっていうところなんですけどね。それこそ、そのへんビョークとかはすごいなと。ミュージシャンには日によってプレイが変わる感覚ってあるじゃないですか。それは歌もそうだし、ごまかしが効かないように緊張感を持ってレコーディングをしたかったんです。私は音楽の捉え方がプレイヤーの人たちと似ていて。ちょっと声が外れていても感情が高ぶる方がいいとか、そういう感覚が近いんで、やりやすいんですよね。トラック・メイカーの方とかは、深夜から朝までずっと詰めっきりで、2〜3秒のループを繰り返して、みたいな細かい方が多くて……それをやり過ぎると、どうしても歌の表情がなくなってしまうんじゃないかなぁと思っていたんです。

── そのあたりなのかも知れないですけど、声のエネルギーみたいなものが前に出てるという感覚があって。

ACOその部分は、私よりもみんなが考えてくれましたね。シンプルで、ほど良いアレンジというのを。わかりやす過ぎずに、でもわかりやすい感じに仕上げてくれたというか。私が打ち込みで作ったデモは、ベースラインにしても何にしても、どうしても簡易なものになってしまうので、そこをミュージシャンの方たちにひとひねりしてもらって。私が考えたコードに「もうちょっとこういう感じもアリなんじゃない?」、「いいね、それがいい!」みたいなやりとりがあったり。

── 例えば過去の作品と比べたりで、歌詞の面で、変わったなと思ったところはありますか?

ACOデビュー当時は子供だったんで、変わったと思います。でも、当時は素直な一言一言で、いまそれをやってと言われてもできないし。シンプルでパッと出てくる言葉も大事だなって思うんですけど。その後、言葉って難しいなって思いはじめた時期があって。その頃の歌詞よりも、いまの方がシンプルで好きですけどね。

── それは意識というよりも、出てくるものがそうだと。

ACOそうですね。いまのはあんまり歌詞っぽくないかも。

── 今回の作品、楽器の編成を考えてもライヴに割と直結してるものなのかなと思って。

ACOそれはありますね。ライヴで困りたくないという。

── いままでの編成だと、困っていたと部分が少なからずあったと。

ACOいや〜(苦笑)。打ち込みを全部再現して、同期させてとか、PCが途中で止まっちゃうとかね。あれは全員がしんどくなっちゃうと思うから。バンドの場合は体ひとつで楽器さえあればできちゃいますからね。

── よくある話ですけど、いわゆる打ち込みで作り込んだライヴに意味があるのかみたいな話になりますよね。

ACOそう、またそこに行き着くんですよ。

── 過去の打ち込みで作った曲を、このいまのバンドの編成であえて再現したりは?

ACO自然にやっています。『absolute ego』の曲は多いですけど。

── ライヴの軸は本作とそのぐらいの時期の曲なんですね。

ACOまりんさんと作った曲とか、エイドリアン・シャーウッドと作った曲は、ロックなアレンジにしても全く違和感がなく演奏できるんです。メロディはしっかりあるので。

── それはまわりの演奏するアーティストもその曲の魅力をしっかりと楽曲を理解してくれてるというのもあるんですよね。

ACOみんなロックのミュージシャンだけど、いろんなジャンルの音楽を好んで聴いているから。

── さきほどちらっと出ましたが、新しいアルバムの評判とかで気になったものってありましたか?

ACOみなさん達筆な方が多くて、すばらしい文章力だなと、ツイッターで検索すると思いますね。今ってそういう反応がすぐに分かるので、素直にがんばって良かったなって思います。嘘が付けない。誰かが裏でコントロールしているっていうのは、本当すぐにバレますよね。

── ちなみに今回、ほぼ自身で制作をやられて、困った部分は?

ACO予算管理(笑)。

── でも、そういうところってリアルな空気感というか、ほぼ自分たちでやってここまでのものが作れるっていうのは、これから出てくるような若いアーティストにとってもはげみになるんじゃないかと思うんですよね。

ACOそうなってくれるとうれしいですね。正直な話、ミュージシャンって今はCDが売れない時代だし、辛いと思うんですけど。でも、やめなくていいと思う。バイトなり何かしてでも、みんな続けてるし、私もやめようと思ったこともあるけど、ここまで続けてきて、いまやめたら悔しいなっていうのがあって。今回参加してもらったのは、腹括ってやってる、同い歳くらいのミュージシャンの方ばっかりだったので、「生活ね……」とかそういう話もしたんですけど。

── 9年ぶりのアルバム『LUCK』を作り終えて、いまはどんな心境ですか? やりきった感じですか? それともまだまだ先に、もっとやりたいという感じですか?

ACOそうですね。またやりたいですね。バンドのメンバーが家族みたいな感じになってるんですよ(笑)。あと、みんな性格が良いんで……って言うと、いままでやった人が性格悪いみたいですけど、そういうわけではなくて(笑)。

── とにかく馬が合うという感じですよね。

ACOそうそう、良い意味で「いいじゃん、いいじゃん、ちょっとはずれててもいいじゃんこっちで!」という感じになれるので。

── 感覚的な部分に関しても空気感が共有できると。

ACOそうですね。

── 今回、2月24日にリキッドルームのライヴがあって、その後の4月19日レコ発があるんですが、この編成のツアーなども?

ACOそうですね。夏ぐらいに東名阪はやりたいなと。2月24日のリキッドはちょっと編成が違って。

── 2月24日はアコースティック・セットということなんですが、どのような編成なんですか?

ACO最近は私も何曲かギターを弾きながら歌ってるんですけど……基本的にはギターと私の2人というセットですね。(アコースティック・セットに)いずれ鍵盤とかも入れたいなと。

── 簡単に言ってしまえばアコースティック・セットは、今回のアルバムのバンド編成からリズム隊抜きで、という感じなんですか?

ACOそう、リズム隊なしで。今回、阿部芙蓉美さんも出演されるじゃないですか? 実は私、すごいファンで。彼女の歌がすごく好きなんです。素朴で、声もすごい綺麗で。以前、他のイヴェントで誘わせていただいたことがあったんですけど、スケジュールが合わなくて……でもその後ツイッターで「ありがとうございます」みたいなやりとりしたんですよ。今回やっとご一緒できるので楽しみなんです!

── 今回、さらに共演者といえばキセルさんですが。

ACOやっぱり歌心のある、メロディアスな感じの曲が多くて。たぶん、年代も近いですよね。お会いしたことはないんですけど、非常に楽しみですね。


ACO(アコースティック・セット)出演!
2012.2.24 FRIDAY
LIQUIDROOM presents “Cry Baby Cry”
@LIQUIDROOM
出演:ACO(acoustic)、キセル、阿部芙蓉美

詳しい公演情報はコチラ

ACO本人によるプロデュース、曰く「2010年代版クラシカル」というテーマの下に作られた生楽器中心の編成。前作となるミニ・アルバム『devil’s hands』から1年3ヶ月、フル・アルバムとしては『irony』から実に9年振りのフル・アルバムとなった待望の新作。元ナンバーガールの中尾憲太郎、toeの柏倉隆史、さらには鍵盤楽器やホーンなど生楽器を中心にしたバンド編成で制作され、アルバム1枚が統一された世界観で展開されている。国内外で広く活躍するAOKI takamasaもミックスで参加。

最新アルバム『LUCK』より、「Innocent」MV

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