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前野健太

前野健太

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やっぱり夢の街なんですよね、東京って


現代の雰囲気や景色、人それぞれの感情など、様々なものを自身の心を通して歌い上げるシンガーソングライター、前野健太のニューアルバム『オレらは肉の歩く朝』が完成した。今までの一人多重録音での制作から一転、ジム・オルークをプロデューサーとして迎え、ミュージシャンとしての次なる高みを目指す意欲作だ。石橋英子など気心の知れたバンドメンバーと原型曲をセッションで自在に変化させ、ドキュメンタリー方式でレコーディング。それによって今まで以上にバラエティに富んだ曲調を実現しながらも、言葉の放つ本質性が前面に押し出されている。前野健太の歌には、言葉の力を信じさせてくれる稀有な情緒が宿っているのだ。3月からはリリースツアーがスタートし、4/21にリキッドルームでの公演でツアーファイナルを迎える前野健太に、いろいろと語ってもらった。



── 今回のアルバムで初めてプロデューサーを起用しましたが、なぜジム・オルークにお願いすることになったのですか?

前野まあ、ちゃんとミュージシャンとしてやっていきたいというか。普段、僕が好きな音楽をCDで聴いていると、大体プロデューサー誰々みたいな感じでジャケットの後ろに書いてあるし。僕は自主レーベルで音楽を作って売ってという経験から始まっているので、ちゃんとレーベルと一緒に音楽を作っていく、ということをやりたかったんですよ。ジムさんとは、「ファックミー」をデュエットした石橋英子さんとバンドをやっていることもあり、会う機会があって。そんな巡り会わせや流れを大事にしたかったので。それでジムさんも「前野サン、金玉アルカライイヨ」と言ってくれたみたいで。なんか「金玉ある=ガッツある」みたいな感じらしいんですけどね(笑)。それならぜひお願いしますと、プロデュースを頼みました。

── リスナーとして見るジム・オルークと、プロデューサーとして関わるジム・オルークは、前野さんが持っていたイメージと違う人でしたか?

前野全然違う人でしたね。ジムさんの作品を聴いて僕がイメージしていたのは、すごく綿密に構成していく人だと思っていたんですね。でもプロデューサーとしてのジムさんは、すごく出たとこ勝負で。出ている音や演奏しているテンション、歌の調子とか、レコーディングの現場の瞬間を大事にしていた気がします。その人の出す音や演奏するものを忠実に録るというか。そういう意味ではきっちりしているんですよ。

── でもそれは一緒にやらなければ気付かなかったですよね。

前野気付かなかったですね。例えば「東京の空」だったら、僕のその時の東京に対する気持ちがすごく出ちゃったテイクが採用されて。でもそれがアルバムの中に入ると、ちょっと弱々しい「東京の空」がすごく効果的に演出されている。そこからグーッと沈んでいって「ジョギングしたり、タバコやめたり」になるんですけど、その流れが今の東京の雰囲気というか、放射能が見えないけど漂っている感じとか、絶妙なストリングスでアレンジしていて。なんかドキュメンタリーっぽくて、面白いなと思いました。

── ジムとは随分、意見の交換はあったのですか?自分はこう歌いたいとか。

前野ありました。ジムさんに歌い直したほうがいいかもって伝えたら、「でもすごくドラマティックだ」と言うんですよ。「1曲の中にすごくドラマがあるから、歌い直さないほうがいいんじゃないか」って。それは僕の今までの考えにはなかった。よく歌えた、気持ちが込められた、というのは以前の楽曲にもありましたけど、1曲の中にドラマがある、というのはハッとさせられましたね。

── それは一人多重録音していた時と劇的に変わった部分だと。

前野自分でやっていたときは理想を求めて本当に何回も録り直していたんですけど、今回はそんなに録っていないですし。それはそれですごく僕の実力が試されて良かったですけどね。シンガーとしてダメなところがいっぱい出たので。

── そして今作にはたくさんのミュージシャンが参加していますが、どのように決めていったのですか?

前野ジムさんにお願いするとなると、やはりジムさんの馴染みのバンドメンバーである石橋さんや須藤さんが中心となり、あとは達久くん(山本)、波多野さん、それから僕が普段いっしょに演奏している「前野健太とDAVID BOWIEたち」のメンバーで、という感じです。みんな合同でやりました。

── 人里離れた場所でレコーディングしたとか。

前野山梨県の小淵沢というところで。

── ああ、クラムボンとかがレコーディングしていたスタジオですか?

前野そうです。そこで一週間、合宿してやりました。


── 合宿生活をしながらレコーディングしていくのは、自分にとってどんな体験でしたか?

前野いや~、初めてづくしだったので、グッタリしましたね。レコーディングを夜10時くらいに終わらせて、それから食事して、お酒を飲んで、トランプをしたり。その間はずっと音楽を流していて。ジムさんが選曲する音楽で、僕が知らないのがあると怒られるという(笑)。

── なんでこのアーティストを知らないんだ!みたいな(笑)。

前野例えば「レッド・ツェッペリン好きか?」と訊かれて、「いや、別にそんなに」と答えたら、すごい権幕で怒られて。まあ、酔っているんですけどね。それが一番、合宿で思い出に残っていることかな(笑)。

── (笑)。だけど、一緒に生活することによって、人間として、という部分が見えたりしましたか?

前野そうですね。だから面白かった。例えば1日目は着いてから弾き語りで4~5曲録って。次の日は僕と石橋さんとジムさんと須藤さんの4人で、その場でアレンジを決めて5曲くらいやって。「伊豆の踊り子」や「看護婦たちは」、「あんな夏」や「海が見た夢」とか、そのへんは1日で全部録りました。

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