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INTERVIEW

Romi Mori Photo Exhibition「Eternal Dusk」インタビュー

Romi Mori Photo Exhibition「Eternal Dusk」インタビュー

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1978年より活動していたLAのポスト・パンクバンド、THE GUN CLUB。そのメンバーに日本人女性がいたことを皆さんは知っているだろうか? その女性(ひと)は80年代初頭からロンドンに移り住み、様々な音楽シーンを自分の目で見て、肌で感じて、たくさんの瞬間をフレームの中に文字通り切り撮り続けてきた。その女性(ひと)はミュージシャンでもあったが、Morisseyに“I adore you.”(君は僕の憧れ)と言われた写真家でもあった。一体どのように写真を撮り、どのように音楽を奏でてきたのか? 世界初となる個展を前に、Romi Moriという女性の生きてきた道を聞いてみた。

── 渡英前から写真はやっていたんですか?

Romiやっていた、というほどのことは何もしてないです。父親がカメラ好きで、家にいっぱいあったので小学校の時から一眼(レフ)を借りて、友達の写真を撮ったりしていたのね。それから中学生の時に写真クラブに入っていたかな。で、ロンドンに行くんだったら記念になるからと一眼レフカメラを買いました。

── なぜ日本を出たかったのですか?

Romi私には面白いと思うことが日本に無かったの。ロンドンに行きたかったのは、やっぱりパンクロックかな。NHKで(ロンドンの)パンクロックやニューロマンティックのドキュメンタリーをやっていて、そういうのを観て「あぁ、凄くかっこいい!」と。街そのものがエキサイティングに見えたし、ファッションも凄く好きだったし。

── 当時は好きだったバンドは?

RomiGeneration X、Sex Pistols…etc.。その前はヘヴィーメタルも好きだったけど、ファッションがそんなに好きじゃなくて。パンクロックは凄くかっこよかった。英語なんか分からなかったけど、対訳みたいなのを読んでいると、ロンドンの街がかっこよさそうだなと思って。で、ロンドン行きを決めた。

── 実際にロンドンに行ってみた最初の印象は?

Romiそれが、行ってみたらおばあさんしか居なくてびっくりしたの(笑)。テレビで観たロンドンの人は、生きている魚をピアスにして下げていたりして「これはもう絶対に行かなくちゃ!」って思わせる感じだったけど、実際は真っピンクのコートなどを着た派手なおばあさんがたくさんいた。それはそれでかっこよかったんだけど。

── (笑)がっかりした?

Romi後で気がついたんだけど、私が留学した81年はイタリア人とかのパンクスが多くて、イギリスの人はもう卒業しちゃってた。カムデンやキングスロードにはポストカードで見られるようなファッションパンクの外国人がたむろしていたのよね。初めは半年滞在しただけ、その後お金を貯めて、1年半後にまたロンドンに戻ったんだけど、その時はイギリスが、ロンドンが変わっていた。

── どんな風に変わっていましたか?

Romiサイコビリーが流行っていた。例えばNMEの表紙も全然違うし、コンサートの雰囲気も、ロカビリーみたいな感じが主流に変わってた。もちろんパンクスも居たんだろうけど、メインはサイコビリーがすごく多かった。タトゥーしててモヒカンで。かっこよかったな。はじめてThe Gun Clubを観たのもロンドンで、‘83年5月くらいだったかな。当時知り合った男の子がCrampsとかThe Gun Clubのファンでライブに連れて行ってくれたんだけど、それがきっかけで凄い好きになって……懐かしい!イギリスのバンドだけでなく、いろんなバンドがいたな。

── その、いろんなバンドのライブへ行って写真を撮るようになった、と。

Romiうん、とにかく撮るのが凄く楽しかった。ライブ中の一瞬が(一枚の写真に)収まっていくのって、撮っているときはそんなに感じないけど、現像してプリントして出来上がるとあの時に観た一瞬が残っている。その事が凄く嬉しくて。そのせいか、アーティストの顔のアップだけじゃなく、ライトを入れたりオーディエンスを入れたり、全体の空気感が入るように撮るのが好きでした。特に83~85年くらいまではかなり集中して撮ったのね。

── 今回の写真展でもその頃の作品が中心ですね。この撮影を続けていく中で、仕事につながったことはないですか?

Romi当時の日本の音楽雑誌は、ミュージックライフを抜かせば、他はファンジンみたいなものだったのね。たとえばフールズメイトも、ロッキング・オンも。そういう雑誌にはお金がないし、今みたいにデータで送ったりもできなかった。たまーに気に入った写真があって、それを雑誌社にエアメールで送ったら使ってもらってお金をもらったっていうのは何度かあったかな。でも基本的には作品撮りというか、出来上がった写真の裏に名前と連絡先を書いて本人に渡してた。今日撮ったものは、次回のライブの時にアーティストに渡すっていう。

── それはアーティスト本人にとって嬉しいプレゼントでしょうね。

Romiある時スミスのライブに行って、モリッシーに前回のライブ写真を渡したかったのね。だけど彼は楽屋から絶対に出てこないタイプなので、ジョニー・マーが出て来た時に「これ撮ったからモリッシーに渡してください」ってお願いしたら「OK」って預かってくれた。そしたらモリッシーから手紙が来て「君の写真がものすごく気に入ったんだ。アルバム(84年の1st「The Smiths」)に使ったのはもう知っているだろうけど、ラフトレードにコンタクトをとってお金を払ってもらってください」って書いてあって! アルバムを買ってなかったから知らなくて、その場でレコード屋に行って見て「えー!」ってもうびっくり。さらに「是非もっと撮ってほしい。今度のコンサートの時に君のためにPhoto Passを取るから、好きなだけ撮ってください。I adore you」って書いてあったの。

── すごい! モリッシーに憧れられた!

Romiお家にも呼ばれたんだけど、そこはマンションみたいなところで、玄関のドアを開けてくれて中に入ったら正面に暖炉があって、マントルピースの上に私が撮った写真の大っっきなパネルがどーんと飾ってあった。「これだけ君の写真が好きなんだよ」って言ってくれて。

── 今回のフライヤーにもなっているその写真は、1stアルバムが出る前のライブ風景なんですね。これがスミスのオフィシャル・フォトグラファーとなるきっかけに……

Romiそれがね、いちどパスをもらって撮りに行ったけど、出来上がっても連絡しなかったの。そういう時けっこう図々しくイケるはずなんだけど、この時はなぜか……怖かったのもあるし、何でわたしの撮ったクソみたいな写真が好きなんだろう? どこがいいんだろう? って。まったく理解できなくて、恐縮もしちゃって連絡できなかった。

── それは……音楽でもそうですが、ちょっと雑なものが良かったり、それこそゴミみたいな音楽が最高にかっこよく感じたりするじゃないですか。そういう感覚をもしかしたら、モリッシーはRomiさんの写真に感じたのかもしれませんよね。

Romi若さゆえ、そういうの全然わかんなかったな。たとえば急に今日、ジョニー・デップから手紙が来て「写真撮ってくれ」って言われたとしたら相当緊張する。なぜなら彼がプロフェッショナルだし、周囲のスタッフもプロ意識を持っている人ばかりだから。一方、あの頃の私はビール臭いカメラ片手に、英語も大して話せず、ただその瞬間の為に撮ってた。この差が大きすぎたみたいな感じだったと思う。

── もったいないけど、すごく気持ちわかります。

Romiでもすごくいい経験だった。それから渡せてない写真を、どうにかモリッシーに送りたいなとは思ってる。ずーっと眠っていたものだから、ちゃんときれいにプリントして、本人に渡したい。

── モリッシーとのやりとりがいろいろありながらも、ライブ行って写真撮ってという日常は続けてたのですか?

Romiうん。撮影中(ライブ中)パティ・パラディンのとがった靴で頭にキックされそのあと満足げに微笑まれたり、暑くて脱いで置いといたライダースが撮影終わったら盗まれていたことも(笑)。私が行くようなバンドのライブって、みんなタトゥーしているから服を脱ぎたいし、ビール飲んでるし、暴れてる。私は写真を撮りたいから前の方にいて、暴れてる人達を避けながら撮るんだけど、ピンボールみたいに跳ね返ってくるから、バンバンぶつかって、カメラがビールだらけになってレンズが回らなくなることも。キリング・ジョークのライブでゴリゴリのスキンヘッド男子に助けられた経験もあったわ。

── そんな場所で毎回、ひとりで最前列へ行って写真撮ってたRomiさんもすごい(笑)

Romiそのうちカメラが動かなくなって、だんだん写真を撮らなくなっていったけど、この頃を思い出すと、ロンドン特有のどんより曇った夕暮れと、ライブハウスで毎晩こぼされ続けた酒が染み込んだカーペットのにおい、たばこや汗のにおい、、、そのどんよりした雰囲気がね、ロンドンだなぁって思う

── The Gun Clubに入った時のお話を聞かせてください。

Romiその時はもう写真を撮ってなくて普通に観に行ったの。そしたらジェフリーにナンパされて、ウチに来て、帰らなくて。それからなんか付き合っちゃって……そんな感じ?

── ジェフリー・リー・ピアースに会った時の印象は?

Romiあの人に初めて会った時、念を背負って歩いているような人だなって思ったのね。暗ーい念がこもっている場所を、哀愁を漂わせながら歩いているみたいな。すごく淋しそうで、でも話をするとすごく子供みたいに笑ったりして。私が帰ろうとすると「帰らないで帰らないで! お金を置いていくから、せめて明日の最終公演にタクシーで来て!」ってお金をくれて。面倒くさいから行きたくなかったんだけど、この人は本当に寂しいんだって思ったし、お金もらっちゃったし、行かないわけにはいかないから、ライブに行って、それでだんだん仲良くなっていった。いつもひとりぼっちっていう印象があります。

── バンドをやっているけど、ひとりぼっち? なんだか寂しい。

Romi私も経験があるからわかるんだけど、バンドがずっとツアーするっていうことはやっぱり大変なことなのよね。長い間ずっと同じ人たちと小さなバンに乗って、同じ顔を見ながら各地をまわって、どんなに疲れてても呑んだりドラッグやったりして無理にでも気持ちをアゲて演奏する。そうするとまた疲れて、でも同じ人たちと違う場所へ行って……その繰り返し。だんだんみんなストレスもたまってくるし、仲いいものも悪くなるし、The Gun Clubもいつの間にか3対1になってたのね。で、ジェフリーはいつもひとりだった。ほかのメンバーとの間に(亀裂が入って)ぱっかり分かれて、メンバー間に猜疑心がめばえちゃってる感じ。冷たいムードを感じました。

── そこにRomiさんが入って、新しい空気感でツアーやアルバム作りができたのかもしれませんね。ちなみに写真撮影の方は、当時はしてなかったですか?

Romiバンドで忙しかったから、それまでと比べると撮ってない。当時は一眼レフじゃなくて性能のいいコンパクトカメラを持っていて、オートボーイっていうやつだったんだけど、それで撮った写真がこの時期は多いです。まだフィルムの時代だけど押せば写るやつね。ツアーでまわったおかげでいろんな写真を撮れたけど、ほかのバンドのライブを観に行くようなことはできなかったな。

── ライブハウスの写真もずっと撮り続けてたら、それもすごくかっこよかったでしょうね。

Romiそうは言っても大変なのよ。機材を持ってライブハウスに開場と同時に入って、一番前を陣取って、暴れる人たちに負けないようにしながらシャッターを押す。若い時だったらまだ元気もあるし辛抱強さもあるからいいわよ。でもバーもいけない、トイレもいけないでしょ? 今だったら写真撮るかビール飲むかだと、ビール飲んじゃう(笑)

── そんな苦労の結晶の中から選ばれた作品が、今回Romiさんの初めての写真展として並ぶわけですが、なぜ今までやらなかったんですか? ロンドンで写真展をやっててもよさそうなのに。観たい人はたくさんいますよ。

Romiやってみたいと思ったこともないの。写真集も出したことない。そういう野望がないのよ(笑)。でも今年の春から夏にかけて久しぶりに長い間日本に滞在していた時、たくさんの音楽好きとお酒を飲んだことが、今回の機会につながりました。お酒をおごってくれたお礼にジェフリーの写真をあげたら「なんかやればいいじゃないですか!」っていってくれた人がいたんです。そこから話がポンポンポンとすすんでいった。こういうのってタイミングよね。

── お酒をおごってもらってなかったら写真をあげてないし、この話もなかったかもしれない。

Romiうん。タイミングがばちっと合ったことを信じてやってみようかなって。でもね、ネガっていう昔のものを、デジタルという新しいものとかけ合わせるのってとっても難しくって。時間があればこだわりたいポイントがたくさんあるけど(今回の写真展の仕上がりは)すごくぶっきらぼうな、いかにもいちばん最初の写真っていう感じがする。

── でも、それを見せるっていうのがいいかもしれない。モリッシーが憧れた世界はどっちかっているとそっちだから。生々しくていいと思います。

Romiありがとう。せっかくやるのだから、楽しんで自分の好きなものをたくさんの人に見てもらいたいな。

②London Punks_romi mori
London Punks
③Lux Interior_romi mori
Lux Interior
④Sisters of Mercy_romi mori
Sisters of Mercy
⑤jeffry at Hansa Studio_romi mori
jeffry at Hansa Studio
⑥house_romimori
当時住んでいたアパート

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当時のRomi Mori

Profile
Romi Mori(ろみ・もり)
神奈川生まれ。1981年初渡英、カメラ片手にロンドンのライブハウスへ足繁く通い、アーティストの撮影をする日々。1984年、ジョニー・マーに渡した1枚のモリッシーのポートレートがモリッシー本人の強い希望によりTHE SMITHSの1stアルバムに起用される。1984年、THE GUN CLUBのジェフリー・リー・ピアーズ(Vo. &G)に声をかけられたをきっかけに、バンドにベーシストとして加入。そのプレイは「Mother Juno」をはじめとする4枚のアルバムと1枚のライブアルバムで聞くことができる。1999年にはジーザス・アンド・メリーチェインのジム・リードらとともにバンドFreeheatを結成。ジーザス・アンド・メリーチェインのステージにも幾度かゲスト・ヴォーカルで参加。このように海外で精力的に活動していながらも日本ではその情報も少なく、これまで謎につつまれていた(日系人だと思ってた人も多いであろう)Romiが姿を現わす。この度、初の写真展となるが、ジャンルを超えた上で立体的に繋がる英国ロック史を垣間見ることができる。Romiがその目で見てきた、生きてきたリアルな風景がここにあり。

これまで彼女が撮ってきたアーティスト一覧(敬称略・同不順)
The Smiths
The Cramps
The Gun Club
The Jesus and Mary Chain
Primal Scream
The Sisters Of Mercy
Guana Batz
The Milkshakes
Flesh for Lulu
Broken Bones
U.K. Subs
Angelic Upstarts
London Cowboys
Patti paladin
Nina Hagen
Peter And The Test Tube Babies
The Cult
Steve New
Andy McCoy(Hanoi Rocks)
Gene Loves Jezebel
Loves
Siouxsie & the Banshees
Edwyn Collins(Orange Juice)
Nick Cave
Blixa Bargeld(Einstürzende Neubauten)
Xmal Deutschland
Siouxsie Sioux
Guitar wolf
and more

Romi Mori Photo Exhibition「Eternal Dusk」

2016.12.16(金)-12.22(木)
13:00-20:00
(12/16のみ19:00オープン23:30まで)

入場無料
トークイベントおよびクロージング:1,000円 w/1Drink

場所 : KATA[LIQUIDROOM 2F]
東京都渋谷区東3-16-6
JR恵比寿駅西口/東京メトロ日比谷線 恵比寿駅2番出口より徒歩3分

協力:SHIBAURA HOUSE_PRESS ROOM

オープニングレセプションパーティー
2016.12.16(金)19:00-23:30
入場無料
DJs : DJ DISCHARGE, So Kajimoto, and more

スペシャルトークセッション
2016.12.17(土)18:00-22:00
1,000円 w/1Drink
Talk Session : Romi Mori, 久保憲司, Tsuneglam Sam(YOUNG PARISIAN), 荒野政寿(CROSSBEAT)
DJs : DADDY-O-NOV, MOODMAN(HOUSE OF LIQUID/GODFATHER/SLOWMOTION), and more

クロージングパーティー
2016.12.22(木)19:00-23:30
1,000円 w/1Drink
LIVE : Romi+Tetsu, Texaco Leatherman, sugar plant
DJs : FIFI, MR.DEATH

詳細は→ http://kata-gallery.net/schedule/romimori_eternal_dusk

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