FEATURE-INTERVIEW

ATARI TEENAGE RIOT

インタヴュー:河村祐介/通訳:浅沼優子

経済危機、インターネット、戦争……90年代よりも歌詞にリアリティが感じられるのかもしれない

今年の春の、ロンドン、そしてアムステルダムでのライヴで、ひさびさに活動を再開したアレック・エンパイア率いるアタリ・ティーンエイジ・ライオット。初代MCのカール・クラックの死やメンバーとの仲違いを乗り越えて、さらには新たなMCを迎え、約10年ぶりの再集結となった。90年代初頭、商業化し、退廃したレイヴ・カルチャーのなかで立ち上がった彼らは、自らのサウンドをデジタル・ハードコアと称して、ポリティカルなメッセージを高速ブレイクビーツに乗せ、エネルギッシュに吠えて見せた。この復活劇とともに配信リリースされた新曲“Activate”を聴く限り、その勢いは衰えていない。
 そして8月6日にここ〈LIQUIDROOM 6th ANNIVERSARY SUMMER SONIC EXTRA〉にて復活後、日本で初のライヴを、そして続く8月7日の〈SUMMER SONIC 2010〉(東京のみ)に出演。ひさびさに東京のオーディエンスの前にその姿を現すのだ。
 ATRの結成から15年以上経ったいま、彼はなにを訴え、なにに抗っているのか!







── 最近の調子はいかがですか?

アレックすごく忙しくしているよ。ATRのライヴもたくさんやっているし、その合間にアレック・エンパイアのショーもやってるし、リミックスもいくつかあるし、レコーディングもあるし……じつのところ、ATRをブッキングしたがっているひとがこれほどいるとは、まったく予想していなかったよ。ロンドンで(復活)ライヴをやって、その後、アムステルダムをやって、あとどこかで2~3回やって終わりだろうと思っていたんだ。そしたらフェスティヴァバルなんかからも声がかかって、正直ちょっと驚いている。もちろん、これだけの反響があることは嬉しいことだけどね。もともと“想定外”のものが大好きだからね(笑)。2週間程前にベルギーの〈Dour Festival〉に出たんだけど、2万人くらいいるメインステージだった。クレイジーだったよ。98年かなんかにも出たことがあったけど、そのときは全然小さい“インディペンデント・ステージ”だったから、今回も同じステージかと思ったら一番デカいところだった(笑)。なんだろうね? 不思議だよ。YouTubeかなんかで勝手に人気が出ていたのかな? 来ているお客さんも、また新しい世代だしね。かつては、少数のすごくコアなファンがいたけれど、今は普通のお客さんも歌詞の内容に共感してくれているようだ。いまの時代のほうが、世のなかのひとびとが考えていることにマッチしているのかもしれないね。経済危機、インターネット、戦争……90年代よりも歌詞にリアリティが感じられるのかもしれない。





── MCのカール・クラックが亡くなられて以来、ATRとしての活動はひさびさかと思いますが、なぜ、いまバンドを復活させたのでしょうか?

アレック意図的に復活させるつもりはまったくなかったんだけどね…… いくつかのできごとが重なって、成り行きでそうなった(笑)。最初にCX・キッドトロニック(CX Kidtronik)という、ソウル・ウィリアムスやカニエ・ウエストなんかと一緒に仕事をしているブルックリンのアーティストとコラボレーションしたのがきっかけだった。彼は完全にヒップホップ畑のひとなわけだけど、僕に彼の曲に参加して欲しいと連絡してきた。だから僕は少しテンポが遅めのトラックをいくつか送ったんだ。そしたら電話がかかってきて、「アレック、あれはあれでいい曲だけど、僕は200BPMくらいの、ATR的なのがいいんだけどな」って言われた。「いいから、とにかく送って!」と言うんで送ったんだ。そしたら大興奮しちゃってね、「これはアルバムに入れたい」と言い出して。彼はいま〈Stones Throw〉から出すアルバムを制作中なんだよ。「これはアルバムのなかでも目立つ曲になるぞ」ってやる気になって、ニック・エンドー(ATRのメンバー)にもヴォーカルで参加してもらえないかと言ってきた。ヒップホップでこれまでにない曲にしたいとね。特にヒップホップの世界では女性のイメージがステレオタイプ化されているから、彼女のような女性をフィーチャーすることで問題提起したいんだって。というわけで、去年の夏にこのコラボレーション曲を作ったんだ。それがとてもうまくいったし、楽しかった(彼のアルバムは未発売。今秋発売予定)。
 そのあとしばらくお互いに連絡をとっていなかったんだけど、数ヶ月して今度はハニン・エライアス(ATRのメンバー)がFacebookでメッセージを送ってきて、「今年か来年に1回くらい(ATRの)ライヴをやってみてもいいんじゃないか」と書いて来たんだ。もう7~8年会話してなかったから、妙な気分だったけどね(笑)。





── そんなに? 一切連絡をとっていなかったんですか?

アレックこれは周知のことだけどロンドンでやってライヴ盤にもなった〈Brixton Academy〉での公演を最後に、ハニンとは完全に決別していたからね。その後子供を産んでタヒチだかどっかに引越した(笑)。まあ、とにかく完全に消えてしまっていたわけだ。でもそれだけ時間が経って、また和解してもいいかなと思えたんで、もともとアレック・エンパイアのソロ・ライヴをやる予定だった5月のロンドン公演を、ATRとして、本当に単発の、スペシャル・ライヴをやったんだ。その際に、CX・キッドトロニックも一緒にやったらおもしろいんじゃないかという話になった。彼自身も「MCやりたい」と言っていたしね。僕はATRに他のメンバーを加えるなんて考えたこともなかった。亡くなったカール・クラックの「代わり」を探すつもりはなかったからね。でもCX・キッドトロニックはまったく違うタイプだし、参加してもらうことで新鮮な変化が起こるんじゃないかと思った。でも参加してもらうことが決まってから浮上したのは、「歌詞をどうするか」だった。カール・クラックの書いた歌詞は、CXにはまったくピンとこないものだったからね。90年代の統合したばかりのドイツというコンテクストで書かれたものを、その時点では一度もドイツに来たことさえなかったCX・キッドトロニックが歌うのは無理があった(笑)。だから、歌詞を書き直したらどうか、彼の視点で書いたものを歌ったらどうか、ということになって、そこからすべてが面白くなってきた。彼はオバマ政権についてや、アメリカにおける人種差別などについて書きはじめた。彼は〈ネイション・オブ・イスラム〉のメンバーだったこともあって、僕にとっては非常に興味深い視点を持っていた。僕らもアメリカを題材に歌詞を書くことはあるが、それはつねにヨーロッパの視点からだ。だからこそ、そのなかにいる者の視点で歌詞を書けるMCがいることは、ATRにとって貴重なことだった。アメリカの政治は地球上すべての人間にとって重要だ。とくにグローバリゼーションが進むこの時代にはね。だからアメリカ人の視点が入ることは僕らにとってもすごくエキサイティングだった。それで新曲を作ろうということになって、新曲の“Activate”を録ろうとしたとき、次の問題が起こった。ハニン・エライアスの声が出なかったんだ。彼女は10年近く現場から離れていたから、以前のように声が出ないということに、レコーディングの段階になって気づいた(笑)。今度は、ニック・エンドーが「じゃあ、私が女性ヴォーカルをやる」と言い出して、バンドとしては以前とはかなり違ったフォーメーションになったんだ。僕は「再結成」という風には捉えていない。ソフトウェアで言うところの“アップデート版”みたいなものじゃないかな(笑)。バンドを観にくる客も世代交代しているしね。そういう世代には、またこれまでにはないインパクトを与えているようだし。僕にとっては少しシュールな体験だけどね(笑)。





── 新編成のコラボレーションという感じですかね。

アレック僕もなんと呼んでいいのか分からない。“今後の予定は?”と訊かれても答えられない。なにも予定してないから(笑)。ピクシーズやダイナソー・ジュニアみたいに、再結成を話題にまた活動をはじめると思われている節があるけど、そういうものじゃないんだ。実はアレック・エンパイアのソロ・アルバムがもうできてるのに、出すタイミングが分からなくて困ってる(笑)。年内はATRの北米ツアーなんかで詰まってしまったから。僕はお決まりのパターンを繰り返すことが嫌いなんでね! 過去数年は、結構映画音楽の仕事をしていてスタジオに籠って同じ映画を40回も50回も繰り返し観るような作業が多かったから、それから解放されて喜んでいるよ(笑)。





── 新曲“Activate”について教えて下さい。

アレックネット上で公開しただけで、「リリースした」という感じでもないけどね。たしかiTunes Storeで買いたいひとは買える(笑)。でも無料でダウンロードすることもできる。面白いのは、こっちがタダで配信すると「お金を払いたいんだけど!」って言ってくるファンが多いこと。僕らは結成当初からインディペンデントでやっているからね、それが直接アーティストをサポートすることになるってことを知っているからだと思うけど。こっちがプレゼントのつもりで渡したものに対して「お金を払う!」と言われるのは、正直変な気分だけどね。気持ちは有り難いね。





── ライヴでは過去の曲を演奏しているんですよね?

アレックもちろん。さっき言った通り、CXのパートを書き直してある以外はこれまでの曲をやってる。そういえば、僕らのドイツでの最初の(復帰)ライヴ、〈Fusion Festival〉の映像は見た?(http://www.youtube.com/watch?v=EX_Ok7NcuRg)面白い映像だから見て欲しいんだけど、ばかデカいステージで、そこに客が押し寄せてきたんだ。〈Fusion Festival〉はベルリン近郊で行われてる、大規模だけどアンダーグラウンドな、左翼的(leftist)なフェスティヴァルだから、ATRにとってはパーフェクトな客が集まってる。ライヴの終盤になって、みんながバリケードを倒してどんどんステージに上がってきた。ほんとにクレイジーだったからぜひ映像を見て欲しいね。「90年代のデモを見ているより凄かった」って言ってる人もいたくらいだから(笑)。本当に面白い体験だったよ。何千人という人が集まっていて、セキュリティーがなにも出来なかった。でも怪我をした人は誰もいなかった。そのときは機材もめちゃくちゃにされただろうと思ったけど、何も壊れていなかったんだ。みんなとてもリスペクトがあった。ライヴが終わったらみんなステージから降りていったしね(笑)。不思議なくらいだったよ。とくに、この前の〈ラヴ・パレード〉で起こったことを考えるとね。理由はわからない。説明はできないけど、もしかしたら(〈Fusion〉の客には)政治的なイデオロギーや考えがあったからかもしれない。次に同じような状況になったときにどうなるか分からないけどね。僕は経験から、客によっては全然違うということをさんざん見てきているから。