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OGRE YOU ASSHOLE

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過去の何もかもを振り切った「今」のオウガ最高値!

 唯一のMCによると「特になんでもないのにやった」東京ワンマンだが、チケットはソールドアウト。年末フェスに盛り上がる音楽ファンが多い時期、リキッドルームにはオウガ・ユー・アスホールが見たい、オウガ・ユー・アスホールの「今」が見たい人間だけがこんなにも大勢集まっていた。
 「今」を強調するのは、近年のオウガが目を見張る変革を遂げているからだ。『homely』以降、BPMは一気に低くなり、ギターの音色はますますメロウになった。人によってはサイケデリック/アンビエント/スペースロックと呼ぶような、あるいは何なのかわからなくて不安を感じるような音像。自然な経年変化ではない。彼ら自身が過去を捨てると決めたのだから、無邪気なUSオルタナの影響が窺えた初期のアンサンブルを求める者にとっては問題作が続いたわけだ。まずは様子見、戸惑い、困惑があったと思う。ファンとの静かな根比べはしばらく続き、2013年の年末になって、ようやく結果が出たのだろう。オウガの今がいい。今のオウガがたまらなく好きだ。愛想も何もない登場のシーンから、客席は歓迎ムード一色に包まれていた。
 アッパーに跳ねるビートやとぼけた愛嬌を振りまくリフレインは、だからまったく必要がなかった。未発表の新曲「見えないルール」から始まるライヴは、秘めやかな単音をループさせながら、「上」ではなく「奥」に進んでいくようだ。気分をアゲて会場の熱量を上昇させる類のものではない。静かに、ぐいぐいと、音楽のインナーワールドに引き込まれていく。リズムはごくシンプルで、出戸のボーカルも断片的なイメージを繰り返すだけ。だが、単調な繰り返しの奥に何か巨大なものが蠢いている。幻想的で催眠的、恍惚とした快感を与えつつ、同時にひどく不吉な予感を引き連れた何か。その正体は僕たちも知りませんけども、という表情のメンバーもいい。少なくとも、初期はカワイイとすら評された「素朴だけどセンスのいいオルタナ・バンド」の面影はまったく感じられなかった。
 掴みどころがない不気味さ、というのは出戸のボーカルにも言えることだ。優しい子供のよう、懐かしいレコードから聴こえてくるよう、宇宙の彼方から響いてくるよう。そんな比喩がすべて当てはまる彼の声は、しかし「どんな想いで歌っています」というエモーションから完全に切り離されたまま。熱量がないわけではない。クールぶっているわけでもない。どんな角度から語っても「〜ない」という位置にいる歌声というのは、考えてみれば相当不気味なのだ。だがそれは怖くない。耳障りは柔らかく、でもホッとするものでもない。ああでもなく、こうでもなく、なんなんだこれ、というハテナの奥に、気の遠くなるほど気持ちいい音だけがある。それに脳みそを揺らされながら、夢を見ているようだと思う。とても変な夢を。
 本編ラストの「ロープ」は、メランコリックかつロマンティックに、永遠と思えるほど長い時間響き渡っていた。まるで悪夢だ。たとえば風邪をひいて高熱にうなされ、何時間かわからないほど眠り続けたあとの、時間や場所さえよくわからなくなって呆然としているとき。あの感覚が全身を襲って、とろけそうな嬉しさと怖さを同時に味わったのであった。

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