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Hyperion Suites

『Hyperion Suites』

Serph

[label: noble<http://www.noble-label.net>/2015]

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「世界で一番大きな木」をテーマに、耽美なメロディーと変幻自在なビートで僕らを飲み込む「短篇集」

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text by 和田瑞生(UNCANNY<http://www.uncannyzine.com>)

2015年1月11日、〈noble〉の公式YouTubeチャンネルより、その一年前に公演が行われた、Serphの初めてのライブ”Candyman Imaginarium”のフルサイズ・ムービーが公開された。ブースを閉鎖する四方の半透明の壁には映像が投影され、その空間の中に、機械を操作し続けるSerphと、音楽に合わせ、コンセプチュアルな演舞を披露するダンサーが存在している。このワンマンライブには、Serph単体のみでなく、非常に多数の人々が関わり、その音楽とコンセプトを共有し、一つの世界観が組み上げられた。国内で、現在これほどまでに確立した世界を描く力を持っているエレクトロニカ・プロジェクトはSerphの他存在しないだろう。

新作『Hyperion Suites』は、Serphの得意とする耽美で優雅なメロディーとアンサンブル、切迫したカットアップ・サンプルといった特徴に、身体性を帯びたビートが合流し、それらは『「所在が誰にも知らされていない謎めいたところにある、ハイペリオンという世界で一番大きな木」をイメージした「お伽の国のソウルミュージック」』という無二なテーマを見事に体現しているように思える。「ソウルミュージック」というその広範な定義の通り、このアルバムはヒップホップからグリッチビートまで、あらゆるリズムに飛び乗り、時にはジャジーな雰囲気を発したと思えば、昨今のEDMを思わせるような音色までもが飛び出してくるような、不思議な感触を覚えさせる。1曲目「hymn」の物語の語り出しをイメージさせる荘厳なサウンドスケープから、2曲目「walkin」の2ステップ・ガラージをモチーフにしたようなビートシーケンスへの転換、曲の後半でスピードが変化し、一気にエモーショナルなサウンドへ持ち込むその展開は、まさに変幻自在な彼のサウンドを体現するものである。

あらゆるビートをモチーフにしながらも、Serphというアーティスト、そして『Hyperion Suites』というアルバムの軸が何一つとしてぼやけていないように感じるのは、きっと彼が「世界観」という軸を元に音楽を形成しているからだろう。例えば、僕達の世界も、周りを見渡せばたくさんの人がいて、その渦の中で、色々な意見が日夜発されている。その中の一つの面をクローズアップし、デフォルメすることで理解を促進させるのがポピュラーな作品であると例えるならば、その俯瞰図そのものを描き出し、それ自体一つの作品と定義して大いなる「何か」を発現させようとする彼の音楽は、それとは性質を異にするものであろう。例えるならば、ボルヘスの短篇集を読み込んだ時のような体験、一語一語の奥に想像を絶する深みが横たわっていることを味わう体験に比類するものだと思う。だからこそ僕達は、彼の音楽の元に、一音一音のその奥に、只者ではない、何か壮大な予感を抱く。そしてその一瞬一瞬に、「ハイペリオン」の木の種が僕達の中で宿り、育ち、新たなストーリーを描く。

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