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American Football (LP3)

『American Football (LP3)』

American Football

[label: Tugboat Records/2019]

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「復活」を乗り越える力作

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text by 天井潤之介

  サニー・デイ・リアル・エステイトやゲット・アップ・キッズ、あるいは同じくキャップン・ジャズから枝分かれしたプロミス・リングらと並び、俗に“第二の潮流(second wave)”といわれる90年代発の「エモ」を代表するバンド、アメリカン・フットボール。近年、リヴァイヴァルが指摘されて久しい「エモ」だが、かたやホテリエやモダン・ベースボール、ワールド・イズ・ア・ビューティフル・プレイス・アンド・アイ・アム・ノー・ロンガー・アフレイド・トゥ・ダイといった2010年代以降の “第四の潮流”(forth wave)の台頭とともに、その呼び水となった出来事として、2014年に実現したアメリカン・フットボールの15年ぶりの再結成を挙げる意見に異論はないだろう。その翌年に日本でも行われたリユニオン・ツアーは即刻ソールドアウト。そして2016年、じつに17年ぶりのリリースとなったニュー・アルバムの2nd『アメリカン・フットボール(※通称『LP 2』)』は、ライヴで慣らしたウォームアップを経て、本当の意味でかれらが復活を遂げたことを印象づける作品だった。

 

 1999年の1st『アメリカン・フットボール(※通称『LP 1』)』のジャケットの写真の家を、同じカメラマンによって異なるアングルから撮影した写真がジャケットに使われた2nd『LP 2』。対して、3年ぶりのニュー・アルバムとなる3作目の今作『アメリカン・フットボール(※通称『LP 3』)』のジャケットには、その家があった地元イリノイ州アーバナの町外れの野原の写真が飾られている。中心メンバーのマイク・キンセラいわく、前作『LP 2』はその“同じ対象物を別の視点から見る”というジャケット写真が意図したコンセプトにならい、1st『LP 1』を参照するようにして制作されたとのこと。それでいうと、夜が明けて、朝靄のなか一日が始まる瞬間を捉えたような今作のジャケットの写真は、慣れ親しんだ場所を離れて、新たなフィールドを視界に収めたバンドのモードを反映しているようで象徴的だ。

 

 前作に続き、オリジナル・メンバーの3人にマイクの従兄弟のネイト・キンセラを加えた再結成後の新体制でレコーディングされた今作。繊細なギターのアルペジオやリフに導かれて紡がれる抑制の効いたインストゥルメンテーション。余白を活かしつつ多彩な拍子を刻むリズム・ワーク。アンビエントな質感を含んだサウンドスケープが広がり、その空間をトランペットなどの管楽器が奏でる勇壮な音色が響き渡る。演奏のトーンや音の質感は穏やかになり、若干のレイドバックした色合いをたたえながらも、一音一音の輪郭をクリアに捉えたプロダクションがアンサンブルのシルエットを際立たせて、サウンド全体のデザインを整えている。スティーヴ・ライヒも連想させるミニマルなオープニングが印象的な「Silhouettes」から、アメリカーナ的な叙情性が彩る「Doom in Full Bloom」をへて、スケール感に満ちたアンセミックなシークエンスの「Life Support」まで。今作ではサポート奏者によるチェロやヴァイオリンのアレンジメントが華やかな音色を添えているが、しかし、ここで展開されているのはまぎれもなくアメリカン・フットボールのシグニチャーと呼べるもの、にほかならない。

 

 メイン・ソングライターのマイク自身も認めるところだが、ヴァースとコーラスの進行が明瞭になり、かれのソロ・プロジェクトであるオーウェンにも通じるソングオリエンテッドな趣向が推し進められた作風は、再結成以降のアメリカン・フットボールの特徴でもある。そんなかれらの方向性を物語るように、前作『LP 2』同様に今作も全編ヴォーカル・ナンバーで構成されている。加えて、初の試みとして今作におけるトピックといえるのが、楽曲ごとに配されたゲスト・ヴォーカリストやコーラス隊の存在。なかでも特筆すべきは、パラモアのヘイリー・ウィリアムズ、カナダのトリオ、ランド・オブ・トークのエリザベス・パウエル、そしてスロウダイヴのレイチェル・ゴスウェルという3人の女性シンガー。ゴスウェルが幻想的な――それこそシューゲイズ的なアトモスフィアを含んだ歌声を聴かせる「I Can’t Feel You」を始め、女性ヴォーカルと重なり合うことでいっそう鮮やかに引き立つマイクのエモーショナルな歌声やリリカルなメロディ、すなわちアメリカン・フットボールがブランクを経ても守り継いできた「歌心」こそ、本作の大きな醍醐味だろう。あるいは、レコーディング地オマハの子供たちによるゴスペル・クワイアを迎えた「Heir Apparent」は、ボン・イヴェールやS・キャリーといったウィスコンシン州オークレア周辺のモダン・フォーク勢との共振も窺わせて素晴らしい。

 

 アメリカン・フットボールを筆頭に、ゲット・アップ・キッズやサニー・デイ・リアル・エステイト、プロミス・リング、ミネラルなど“第二の潮流”のリヴァイヴァルが「エモ」シーンを賑わせている。しかも、そのなかには、単なる「再結成」に留まることなく、その意義をみずから問い直すようにニュー・アルバムや新曲を制作するバンドが少なくない。その意味でも、今作は、アメリカン・フットボールという存在をあらためてクローズアップさせる作品となるにちがいない。

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