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Flamagra

『Flamagra』

Flying Lotus

[label: BEAT RECORDS / WARP RECORDS/2019]

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人間とこの世界のコラージュ

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text by 小川智宏

 前作までのFlying Lotusのアルバムとは少し趣が違う本作『Flamagra』。ステージパフォーマンスのある種振り切れた享楽性(めっちゃドープだけど楽しくて、スティーヴン・エリソンもいつもなんだか笑っている)と対照的に、ディープな思想とヴィジョンをに煮詰めて凝縮させたようなこれまでの作品に比べて明らかにキャッチーであり、そしてテンポがいい。

 

 テンポということでいえば、1曲ごとのランタイムの短さは相変わらず。だが今作ではそれが27曲(日本盤はボートラ1曲プラス)も入っていて、トータルで70分弱というヴォリュームにもかかわらず、目まぐるしく情景が切り替わるので聴き終えた感覚としてはもっとずっと短く感じる。そしてキャッチーさということでいえば今作で特筆すべきはフィーチャーされているゲストの多さと多彩さ。アンダーソン・パークにソランジュにリトル・ドラゴン、サンダーキャット、トロ・イ・モアなどなど、果てはジョージ・クリントンにハービー・ハンコック、「Fire is Coming」でリスナーの恐怖を煽る朗読を披露しているデヴィッド・リンチまで。今作はさまざまな声や音がラフにカットアップされた、まるでミックステープのようである。場面をつなぎ合わせながらストーリーを紡ぐという意味で映画的であったはずのFlying Lotusの表現は、ここにきてもっと大胆で、そのぶん不安定で過激なものになっているのである。『Flamagra』は揺らいでいる。陽と陰のあいだで、凶暴さと繊細さのあいだで、生と死のあいだで。

 

 前作『You’re Dead!』でグラミー賞候補になるという事件を起こして以来、彼はプロデュースワークに勤しんだり、ケンドリック・ラマーとコラボしたり、映画『KUSO』を監督したりしていた(この映画ほんと最高)。その一方で自身が主宰するBrainfeederは10周年を迎え、自身のライヴでは3Dを駆使したとてつもないショーを展開するなど、今やFlying Lotusは押しも押されるビッグ・クリエイターである。『KUSO』のジャパン・プレミアで普通に舞台挨拶に登場しているのを見たときは笑ったが。とにかくそんななかで作られた本作は、じつは成り立ちからしてこれまでとはだいぶ違っている。本作には『KUSO』の劇中音楽もいくつか収録されているし、その他の楽曲についても作られた時期はバラバラだ。まさにこのアルバムは、異なる時間、異なる空間、異なる人によって作られた瞬間の(無作為な)コラージュなのだということができる。ではそのバラバラなシーンやイメージの集積を貫く、Flying Lotusの視線とはなにか。

 

 前作『You’re Dead!』のテーマは、そのタイトルどおり「死」であった。それを乗り越え、今作で彼はもっと大きく、そしてタフともいえる視野を手にした。それは「死」を内包する「生」という概念であり、その「生」を無作為につなぎ合わせたこの世界だ。「炎=Fire」というモチーフが今作のベースにあるとするならば、その炎とはこの世界に燃える命のことでもあり、その命を焼き尽くす恐怖のことでもある。その両極――すなわちここに生きる「人間」を、このアルバムは描ききっているように思えてならない。だからこそこれだけヴァリエーション豊かなゲストの召喚が必要だったし、これだけのヴォリュームが必要だったのだ。しかし冒頭にも書いたとおり、このアルバムは深遠長大というよりも軽やかだ。それはスティーヴンがこの世界を総体的にポジティヴに受け止めていることの証だろうと思う。ローカル=LAから飛び出して宇宙へと広がり、神秘の世界にまで手を伸ばしたFlying Lotusのヴィジョンは、今作で地上へと戻ってきた。そんな感慨を覚える愛しいアルバムだ。

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