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miss u / C U L8er

『miss u / C U L8er』

gato

[label: gato/2019]

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切なさはどこからくるの?

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text by 小川智宏

「切なさ」という感覚は日本語独特のものだと思う。英語で表現するならpainfulかsorrowfulか、あるいはただsadか、どれもかすっている感じはするがドンピシャではない。「悲しい」でも「痛い」でも「辛い」でもない、ちょっと胸がツンとする感じ、「切ない」としかいいようのないあの感じ。侘び寂びである。個人的な話になるが、小説でも映画でも、そして音楽でも、愛してやまない表現には必ず「切なさ」がつきまとっているということに最近気づいた。

 

本題と直接関係のない話を続けて恐縮だが、「切なさ」とは過去というよりもむしろ未来にあるものだ。未来というより未来の予感といったほうがいいかもしれない。すでに失われた何か、手に入らなかった何かは悲しみや痛みとなり、傷口が自然治癒するようにやがて癒えていく。しかし何かを失う予感、手を伸ばしても手に入らなさそうな予感は、ぼんやりとした不安やざわつきとなって常に心に忍び寄る。まだはっきりとした形を成してはいないけれど、やがて間違いなくやってくるであろう悲しみを感じ取ったとき、その感覚は切なさとなる。切なさとはその後に来るもっと大きな悲しみや痛みの先端なのだ。その意味で、切ない表現とは、ちゃんと未来を先取りしている表現だということもできる。

 

と、ここで急に本題なのだが、東京を拠点に活動するエレクトロバンド・gato(ガト)の2nd EPである本作は、その「切なさ」の塊のような作品だ。新進気鋭の若手プロデューサー/トラックメイカーpavilion xoolがプロデュースした全5曲はノスタルジックな電子音とパンチの効いたビートでリスニングにもフロアユースにも対応する柔軟さを持ちながらも、そこにヴォーカルageの儚げな歌声が重なることでとてつもなく情緒的な色合いを帯びる。

 

昨年12月にリリースされた前作『luvsick』もそうだったが、今作は音としての輪郭がはっきりし、歌詞の具体性も増し、彼らが表現する感情がよりヴィヴィッドに立ち上がっている。「白昼照らすroom/並んだ道も/君がいない」と愛する人がいないとう状況をある意味淡々と歌う「miss u」にはじまり、まるで思い出をたどるように、gatoはふたりの情景を描いていく。後半になればなるほどリズムは強くなり、その強いリズムがかえって切なさを煽っていく。そしてほとんどインストトラックと化したラスト「throughout」でageは「you are the inside, throughtout/someone, you got this mean?」とだけ歌う。それはいわば切なさの生まれる瞬間だと思う。

 

今年4月にVJのsadakata(tomodati)が加入、映像と音によるライブ表現もすごいことになっているらしいgato。クールでエッジのあるバンドであるのは間違いないが、僕はこんなふうに、ちょっとエモく聴いている。

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