FEATURE

REVIEW

A Missing Myth

『A Missing Myth』

Kaoru Inoue

[label: SEEDS AND GROUND/2012]

Amazon

そのキャリアを網羅するような、現時点の集大成的作品

twitter facebook

文;河村祐介

『Sacred Days』から2年ぶりに届けられた井上薫のニュー・アルバム。この名義が開始された当初は、彼の名前を世に知らしめたChari Chari名義との差別化もあってか、そして活発化するDJワークと作品制作の循環のなかにあってか、方向性的には、割とストレートなテック・ハウスというイメージがあった。しかし前作あたりから、本名義にもChari Chari名義で展開していたようなワールド・ミュージック的な要素が垣間見えることになった。そして本作は、さらにそれが進み、両名義の最良の部分が溶け合った、過去から現在に至る彼のキャリアを網羅するような作品となった。インド古典やガムラン、アフロ・パーカッションなど、アジア~中東~アフリカのエスニックなサウンドが電子音と有機的に溶け合うアンビエント~テック・ハウスが全編にわたって展開されている。ワールド・ミュージック的なビートが生み出す恍惚と、電子音のフィジカルなビート、シンセの高揚感が、美しきコズミックな飛びを描き出す。Chari Chari的なそのコスモロジーを巨大なダンスフロアで拡大発展させたような作品だ。自身がプレス資料にて「『A Missing Myth』というタイトルを「未来の考古学を想定して、物事の起源ではなく”現在世界は何処へ向かおうとしているのか”を記述しようとする「(未来の)失われた神話」をモチーフとしている」と、言うように、古代からの音と未来が入り交じるその世界観は、過去を妄想する“神話”というよりもむしろSF的ですらある。

RECENT REVIEW

REVIEW TOP

RECENT REVIEW

REVIEW TOP