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抒情詩歌 Shing02

『抒情詩歌 Shing02』

Shing02

[label: /2025]

世に向けた内省、魔性の詩的ヒップホップ

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三木邦洋

あくまで受け取り手側の印象の話だが、Shing02のフルアルバムは常に、その時代その瞬間にもっとも深い響きが生まれるような、またはなるべく遠くに波紋が届くような手法と言葉を選ぶ。


日本語ヒップホップ黎明期において、サウンドとリリックの両面で突出した洗練を見せつけ、俯瞰的にアイデンティティの自問や葛藤を開陳してみせた『緑黄色人種』(1999年)。社会への欺瞞を痛烈に斬り捨てるようなリリックが冴え渡り、多彩なビートを武器のように操りリスナーを揺さぶった『400』(2002年)。「究極の人源サンプリング集」というコンセプト通り、多くのアーティストとのセッションでサウンドを構築し、ジャズ/ダブ的サウンドスケープのなかで哲学的な世界が展開された『歪曲』(2008年)。『歪曲』で取り入れた邦楽器の要素をサンプリングに置き換え、盟友SPIN MASTER A-1と共にトラップ全盛の時代に独自のアプローチを示した『249611』(2019年)。


これら日本語ラップ作品以外にも、タイプの異なるDJやトラックメイカー、バンドとの連名で、意欲的なプロダクションにトライする作品を多数リリースしてきた。そうしたキャリアを経て、久々のソロ名義のフルアルバムである今作「抒情詩歌 / JOJŌSHĪKA」はどんな内容になっているだろうか。


前のめりにリリックに耳を澄ますまでもなく、言葉が入ってくる。勝手に入ってきてシクシクと刺さる。JO-JAYが組むシンプルで甘美なループに乗って運ばれた声が、身に覚えのある感情を呼んでくる。そうそう知ってる、このやりきれなさ、行き止まりの感覚、これって誰のせいなのか。「何なんだこの胸の空洞は」(M2 柘榴)、そうまさに。


または、「一筆」(M6)「回想録」(M11)のような日記調の小さな世界で語られる言葉が、これ以上ないほど壮大なイメージを植え付けてくる。厳選された言葉と削ぎ落とされたサウンドの交わりが生む効果。最小の世界で最大のことを歌う。生活を歌えばそれが世界を批評することになる。「詩歌」というタイトル通り、または李白の詩「静夜思」が曲名に引用されている通り、今作はヒップホップのフォーマットでこそ可能な詩表現を突き詰めた作品だ。聴き終わって、だから叙情ではなく抒情なんだ、と気がつくとまた込み上げてきてしまう。「目次」から「後記」まで、一直線に落ちていく体験。受け止めきれないほどの何かがあるから、繰り返し聴いてしまう。これ、ライブで聴いたらどうなっちゃうんでしょうか。

https://www.e22.com/

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