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TESTSET、バンドのとしての深化 / 真価を発揮したセカンド・アルバム『ALL HAZE』をレヴュー

『TESTSET、バンドのとしての深化 / 真価を発揮したセカンド・アルバム『ALL HAZE』をレヴュー』

TESTSET

[label: /2025]

TESTSET『ALL HAZE』

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text by 大久保祐子(SUGERSWEET)

セカンド・アルバム『ALL HAZE』はTESTSETの音楽にまだ出会っていない人にこそまず届けるべき作品で、彼らの今後の行方を示す重要なアルバムだと確信している。

 

TESTSETは偶発的に生まれたバンドだった。何しろ彼らは2021年夏のコロナ禍の鬱屈した空気の中で起こったさまざまな出来事の末、2021年のフジロック出演時のMETAFIVE特別編成としての出演で、ある種の行き過ぎたキャンセルカルチャーの悪しき流れに屈しないことを言葉ではなくライヴという態度で示した稀な存在としての出自を持つ。生前の高橋幸宏が最後に所属したバンドの緊急事態を引き受けたことで一部の音楽リスナーにとってはある種の英雄でもあったと思う。そこで掴んだ手応えをもとにMETAFIVEからは砂原良徳とレオ今井、そしてそのライヴにて窮地を救った白根賢一と永井聖一を加えた4人のTESTSETが誕生し、およそ1年後に5曲入りEP『EP1 TSTST』を、翌2023年にはフルアルバム『1STST』をリリースするまでに発展していった。インダストリアル・テクノやポスト・パンク、エレクトロ・ファンク的要素を融合させつつストイックなダンス・ミュージックに徹した1stアルバムは、METAFIVEにおいて砂原良徳とレオ今井が担っていた性質を主に抽出して圧縮したような、構築された美学と強い気概を感じる作品だった。

 

ただ彼らは元々が多方面で活躍し続けてきた4人が集まったいわゆるスーパーバンドであるがゆえに、TESTSETという名前のとおり試験的に活動するサイドプロジェクトのような存在として認識されがちであったし、音圧が強めの隙のないソリッドなサウンドは重度の電子音楽好きから絶大な支持を得ているにも関わらず、やはり新しいバンドとして捉えるのが難しく、新規のリスナー層にアプローチするにはやや完成されすぎていたようにも思う。

 

しかし今回の『ALL HAZE』は少し趣が違う。約2年3か月ぶりのアルバムと紹介されているが、上記にように偶発的に発生したTESTSETがたった4年間で2枚のEPと2枚のフルアルバムを完成させたのは驚異的なことである。その合間を縫うように地道に続けてきたライブ活動からもバンドとしての質の高さを保っているのが伝わってくる。前作のような強靭なグルーヴを発揮しつつも鬼気迫るようなあの緊張感からは解放され、楽曲に4人の個性があらわれひとつひとつに違う表情があり、1枚のアルバムを通して景色が変化していくさまはとても楽しい。80年代のニューウェイヴの生き生きとした無邪気なビートや、邦楽や洋楽の枠にとらわれない90年代のテクノの自由な空気を纏った豊かな音は、ゼロ年代の研ぎ澄まされたサウンドデザインを経由して、成熟したメロディとコーラスが新たに加わり、それらをひとつにまとめあげた現代のオルタナティヴサウンドとして圧倒的に優れている。

 

全9曲の多彩な楽曲はどれも甲乙つけ難く、ラストに「Initiation」というタイトルのこれぞTESTSET!というスタイリッシュなインスト曲を置く構成も魅力的だが、1曲だけ選ぶとするならぜひとも「The Haze」に注目してみてほしい。TESTSETの新境地といえるこの曲は、高橋幸宏が蒔いた種から生まれた遅咲きの花の中でいまもっとも美しく揺れている。

 

TESTSETの作品は、ハイレゾ / ロスレス音源でOTOTOYでも配信中!
https://ototoy.jp/_/default/a/1163120

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