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Wondrous Bughouse

『Wondrous Bughouse』

youth lagoon

[label: Fat Possum Records/2013]

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前作でアメリカで圧倒的な存在感を誇る音楽ウェブ・メディア、ピッチフォークの読者投票でベスト・ニュー・ミュージックの称号を獲得し、期待の2作目はいかに!

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text by Mariko Mizukami

2011年、Youth Lagoonことトレヴァー・パワーズはひっそりと現れた。カリフォルニア生まれの若き青年が宅録で作り上げたファースト・アルバム『The Year Of Hibernation』は、とても私的な作品だった。
自信のなさ、自問自答、母性を求めるうぶな心、その頃の彼が絞り出した“100%の彼”がそこにいた。決して明るい雰囲気のアルバムではないけれど、音によくここまで自分をさらけ出したなと関心するほど説得力があって、結果的に手に取る多くの人に響いたのだと思う。純粋で果敢なくて野暮ったい。何度も何度も聴きなおしても色褪せない印象の強いアルバムだった。ちなみに『The Year Of Hibernation』は2011年、アメリカで圧倒的な存在感を誇る音楽ウェブ・メディア、ピッチフォークの読者投票でベスト・ニュー・ミュージックの称号を獲得し、同年度のベスト・ニュー・アーティスト部門の2位にも選ばれている。

そんな彼のセカンド・アルバム『Wondrous Bughouse』を聴いた時、正直びっくりした。
ドリーミーな非現実的な世界に感じることの多い、悩みとか迷いを伴う不安要素がまったくない。堂々としていて楽しい。確固たる芯が1本通ったポジティブな気概を感じるアルバムだった。
 彼は本作の制作過程での心情についてメディア・インタビューにこう語っている。
“このレコードに向き合う際に、自分がこうしなきゃと何かにとらわれていることに気がつく場面が何度も何度もあった。「おいおい。このサウンドだと或る場所(あそこ)に向かいたいと思ってる音に聴こえない。ここに向かいたいと思ってる音に聴こえるよ。」ってね。自分がこの曲に何を言わせたいかよりも、この曲が何を言わなければならないかに耳を傾けよう。(音は)こうしなきゃって思って出て来るんじゃない。ただ自然と生まれて来るものなんだ。”

繊細で壊れてしまいそうな感情を音にぶつけていた彼が、懐深く自身を見つめている。もっとフォーカスすれば音を適切な状態に導けることを知っている。自分を思いっきり試したがゆえに、皆を想像もしていなかった世界に連れて行ってくれた。
処女作「The Year Of Hibernation」、二作目「Wondrous Bughouse」の順に聴くと、彼の年輪に少し触れる事ができる。
誰かの成長や発展を耳から取り入れることは、情熱を身体中に吸収することに等しい。可能性や希望に満ちた情熱を。

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