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TELE○POTION

『TELE○POTION』

七尾旅人

[label: SPACE SHOWER MUSIC/2014]

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ロマンスと境界線

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text by 梅谷 裕貴

東京という都会で生活をしているとしばしば自分の立っている場所が分からなくなる事は
誰しもにあるのだと思う。それは騒音や喧噪、突然の大雪、報道や友人、恋人との関係性に
よって引き起こされたりするのだろうが、当たり前のようにスマートフォンやインターネットを眺める我々にとって目で見る風景とディスプレイの中の世界は曖昧な境界線によって混在している。
七尾旅人の新しいEP「TELE○POTION」はそんな曖昧な境界線の上を滑り行くサーフボードのようだ。その上に乗るのは私でありあなたでありその他の誰でもいい。
表題曲であるTELE○POTIONは90年代のロマンスの波を滑りながら電話を通した君と僕達の
約束を歌っている。取り繕おうとする日常の距離感を青さで表現する言葉の質感は、
過ぎて行く時間を甘酸っぱく彩り、馳せる心をテレポートさせていく。
5曲のEPとして構成された本作にはコンセプトアルバムとしての趣があり、
興味深い別バージョンが3曲収録されている。
「telephonic error」は留守番電話に込められた七尾旅人からのメッセージ、
Phewをゲストボーカルとして迎えた「telegraph ma’am」では興隆をみせるインダストリアルテクノ(Andy SttotやVatican Shadowのような)を下地とした実験的なディストピアを描き
「Juke for Teleport Nation」ではこちらも日本での発展と変革を続けるシカゴ発高速ダンスミュージックであるJukeのシーンからboogie mann、食品まつりa.k.a foodmanを招き
twitterで公募した老若男女70名以上の様々な声を用い官能的で孤高のダンストラックを披露している。フィジカルに重点が置かれるダンスミュージックにおいて、意識を内面や境界線へとトリップさせていく構成は原曲と相まって特異で奇妙な、、、シュルレアリスティクな方向を指し示しており
注目されるべき楽曲だろう。
大きすぎる風呂敷は広げず、あくまでも私たちの日常に点在するズレや振り返りたくなる瞬間に目を向けたこの作品は都会で暮らす市民にとってテレポーションを促す入り口となってくれる。
いつもより少し違う時を感じたら、迷わず飛び込みましょう。

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