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PICTURE

『PICTURE』

王舟

[label: SPACE SHOWER MUSIC/2016]

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ポート・タウンのストレンジャー

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text by 荒内佑(cero)

 『PICTURE』は名盤だ。早々2016年のベストに選んでも年末の自分は後悔しないだろう。だが、その内容を誰かに説明しよう とするとどうも上手く行かない。アメリカーナ、カントリー、スワンプ、ディスコ……口にしてみた所で言葉が空虚に上滑りしていく。ど こかで聴いたことがあるはずなのにルーツが見えるようで見えない。かと言ってオリジナルな事をやってやろうなんて意図は微塵も感じら れない。結果、慣れ親しんだ愛聴盤を再生するような感動と、新種の音楽を発見したような興奮が同時にやって来る奇妙な体験をする。 きっと本作を聴く者はここに漂う暖かさとは裏腹に自身の価値観が穏やかに揺さぶられるのを感じるだろう。まるで未だ名前のついていな い都市のルーツミュージックだ。
 上海からやって来た王舟にとって日本は異国であり、日本で生活を送る王舟にとって海外もまた異国である。つまり彼の本質 はどこにいってもストレンジャーということだ。英語で歌おうと、日本語で歌おうと、もしくは歌がなくてもそこには驚く程壁がない。チープ なシンセサイザーと生々しいギターの組み合わせに一瞬戸惑うかも知れない。しかしそこには聴いたことがない調和がある。このシームレスさ はそんな王舟の出自から来ているのかなと思う。ストレンジャーだからこそなし得た音楽。しかし一聴して孤独や箱庭的な世界とは無縁だとい うことが分かる。(彼一人で演奏、録音、ミックスをこなしているとしても!)人々は本来誰もがよそ者でありそれを忘れて生きている。よそ 者同士、友達になり、恋をし、別れがある。束の間の安らぎと漂流を行き来する。もし『PICTURE』がリスナーに共感を呼び起こすなら そんな人間の本来性を王舟が体現しているからかも知れない。
 よそ者は酒場に、都市に、港に集う。ラストトラックの「Port town」を聴きながらふとジャームッシュの映画を思い出した。パーマネント・ヴァケーション。港を出る船から写された摩天楼の長回し。漂流する喜びとブ ルースを知っている者が撮れる画。『PICTURE』にもまた、そんな景色が描かれている。

ライブ情報
王舟『PICTURE』 Release Tour (Big Band)

2016.3.13(Sun)
open 17:00 / start 18:00
チケット:前売3,000円/当日3,500円(チケットぴあ(P:283-826)/ ローソンチケット(L:77924) / e+)
LIVE 王舟 ※初となるビッグバンドでのワンマンです。
https://www.liquidroom.net/schedule/20160313/27523/

関連展示情報
YUJEONG EOM solo exhibition『GOOD,FAVORITE,LIKE』

王舟の最新アルバム「PICTURE」のジャケットのイラストを手がけた彼女。
寂しげだが力強い油絵の印象的なジャケットは各所で話題に。

2016.3.4(Fri) – 13(Sun)
open 13:00 / close 21:00

opening reception
2016.3.4(Fri) 18:00 – 21:00
http://kata-gallery.net/schedule/yujeong

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