FEATURE

REVIEW

KVI BABA

『KVI BABA』

Kvi Baba

[label: ForTune Farm/2019]

Amazon

闇から飛び立った魂

twitter facebook

text by 小川智宏

 正直、SoundCloud発というところも、KMやBACHLOGICがプロデュースしているというところも、そのEPのアートワークがJUN INAGAWAのイラストというあたりも、そして何より業界挙げてという感じのプッシュっぷりも、ちょっとハイプ感あるなあ、というのが当初このKvi Babaというアーティストに対して抱いた印象ではあった。スタイル的にも今のトレンドにうまく乗っている感じがしたし、ルックスもキュートだし。でも、その先入観はSALUが客演した「A Bright」を聴いてリリックを読んだときに吹っ飛んだ。ヘヴィな現状認識と《絶対諦めない》という愚直な意志が並んでいるその歌詞は、このラッパーが「こちら側」の人間であることを教えるに充分だった。

Kvi Baba、大阪出身、1999年生まれ。今年20歳という意味で「新世代」であることは間違いないし、サウンドデザインや彼のパフォーマンスも正しくリル・ピープ的というか、ジャンルや時代の境界をナチュラルに突破していくセンスを感じさせるものになっているのだが――それは決して時代やトレンドに対する反射神経のような薄っぺらいものではなく、むしろ抜き差しならない彼自身のエモーションと衝動から生まれてきたものである、ということをまざまざと見せつけてくるのが、このファーストアルバム『KVI BABA』である。

たとえば今作の1曲目「Crystal Cry」を覆うダークでヘヴィなムードと、閉塞感と生きることの絶望を綴った言葉。「Life is Short」で描かれる、生と死のギリギリの境界線。「誰も愛せないんだろう 僕をもう」というラインがまるで独り言のように聞こえてくる「Nobody Can Love Me」は行き場をなくした魂を残酷なまでに見つめ描写する。もちろんエモの王道といえば王道なのだが、そのヒリヒリとした闇はジャンル論に収束するようなレベルではない。おそらくKvi Baba自身のバックグラウンドや過去が反響しているのだろう、出口のない真っ暗闇から出発せざるを得ない彼自身のストーリーが、痛いほどに伝わってくる。

しかし、このアルバムが感動的なのは、その暗中模索を超えて、しっかり希望と未来に向かって歩を進めようという意志が貫かれているところだ。「Life is Short」が生と死の歌というよりも愛の歌であることを説明するまでもなく、傷をさらし、それをなめ合うことをKvi Babaは望んでいないのだ。ビートの足取りは重いが《未来を知ってる/どんな過去も超えれる》という意思表示を刻む「HOPE」と、出自や運命を愛によって乗り越えていく「All Things are Fate」というアルバムラストの2曲は、Kvi Babaの「この先」を予見しているように思える。袋小路の真っ暗闇の中で手探りで未来を探す、このアルバムはそんなKvi Babaの姿のドキュメントだ。そしてそのドキュメントはこの先、どんどん様相を変えていくだろう。暗い場所から飛び立った魂がどこに向かうのか、今からとても楽しみになる。これはそんなアルバムだ。

RECENT REVIEW

REVIEW TOP

RECENT REVIEW

REVIEW TOP